2012年9月26日水曜日

妖精たちの夜( I )/エリアーデ

エリアーデの小説に、何故、引きつけられるのか、よく分からない。

物語は、お世辞にも分かりやすいものとは言えず、登場人物は索引を作らないと混乱するほど多く、発せられる言葉も謎めいていて、時間も錯綜し、時折、自分が何を読んでいるのか分からなくなる。

読んでいて、さっぱり心に響いてこないパートもあれば、突然、響いてくるパート もあり、そのアンバランスさが極端なのだ。

しかし、そのアンバランスさの中に、エリアーデの魅力があることは明らかである。
こんな読書体験は、エリアーデにしか感じたことはない。

妖精たちの夜( I )は、間違いなくエリアーデ的魅力にあふれた小説である。

主人公のシュテファンは、妻のヨアナと、夏至の夜に出会ったイレアナの二人を愛している。
この三人の関係を中心に、第二次世界大戦の渦中にあるルーマニア、ポルトガル、イギリスを舞台に、主人公とそっくりな流行作家、野心家の隻眼の弁護士、その父、ルーベンスの絵をもって亡命しようとする美術史教授、予知能力をもつその姪、主人公の友人で結核を患う哲学教師、彼を翻弄する女優、その恋人の演出家、主人公を誘惑する言葉遣いがひどい女など、さまざまな人々が絡み合う。

恋愛を描いているのは、私の読んだエリアーデの小説では処女作「マイトレイ」以来のような気がする。また、戦争と歴史、そこからいかに自由に生きるかという視点も幻想小説では直接的に語られなかった部分である。

防空壕の中、たとえ、爆撃され命を落としたとしても、その瞬間に、ある詩人の天才に心を奪われていれば、一個の自由な人間として死ぬのであり、空襲というごく矮小な歴史的事件に立ち会うことを拒絶できる、と主張する主人公の言葉が強く印象に残った。

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