2017年6月28日水曜日

幻魔大戦Deep 8 appendix/平井和正

幻魔大戦Deep 8は、本編の終了後に、appendixが14章もついているが、基本的には、本編の物語の流れを引き継ぐ内容になっている。

冒頭の“握り潰し”が、面白い。
下痢になった美恵が、少女を犯すレイプ犯たちの睾丸を握力70kgの力で握りつぶしてゆくという活劇が展開されている。久々に、作者の下品なアクションシーンを読んだような気がしたが、やはり、こういう場面になると、俄然、文章が活き活きしているのが感じられる。

もう一つ面白いのは、東丈を愛人として求める欧州の王女の存在だ。
彼女は、欧州王族結社のような団体のメンバーで、イスラムの無力化を目指し、イスラム原理主義のテロリスト、過激派を養成し、彼らに事件を起こさせ、イスラムを世界全体の敵に仕立て上げ、イスラム全体の衰退を狙っている。

この作品が2001年のニューヨーク同時多発テロの後に書かれた小説ということもあるが、その後のテロ事件の継続を考えると、この作品の目の付け所は鋭い。

強力な催眠能力を有する彼女に死んだ姉妹がいるというあたり、彼女がルナ姫の妹で、リア姫の姉のような気がするのは、私だけではないだろう。

このappendixの最後のほうでは、東美叡を夜な夜な苦しめていた“斉天大聖”が、サンシャインボーイと共に現れ、東丈のパソコンから、1995年12月8日に作成された“GENKENに関する考察”というファイルを見つけ出す。

そのファイルには、1960年代、渋谷に“GENKEN”という宗教団体があり、そのカリスマとして東丈が存在していた事実が書かれていたが、東丈には、そのような文書を作成した記憶はない。

そして、“斉天大聖”に鍛えられるべく、ついに東丈は幻魔と相対することになる。

読み終わった感想としては、東丈という存在意義が少しだけ分かったような気がした。
何故、彼が二度も失踪しなければならなかったのか、それはつまり彼が自分の存在意義をうすうす覚知したからということなのだろう。

この作品の最大の収穫は、続編が書けるような余裕がある世界観、物語構成にtransformできたことだと私は思う。

2017年6月26日月曜日

幻魔大戦Deep 8 本編/平井和正

幻魔大戦Deepも、この8巻が最終巻である。

東美恵は、東丈のサイキック能力も使わない不思議な交渉力のおかげで、敵方の仲間割れに乗じ、地下牢を抜け出すことに成功するが、謎の王女に拉致されてしまい、サイキック能力のある彼女から、再び東丈を彼女の下に連れてくるようにという命令を与えられてしまう。

一方、東丈が進めていたテロリスト判別ソフトがついに完成する。
これに関する東丈のコメントが、共謀罪を彷彿とさせて面白い。 下記の“監獄社会”が“監視社会”だったら、完璧だったろう。
このソフトの恐ろしさは、犯罪者を全部弾き出すことと、犯罪予備軍まで全部洗い出すことだ。

「やめておけばよかった、とみんな後悔するだろうな。だが、テロリストが存在する限り、みんな認めるしかない。テロリストが全員拘置されたとしても、この先の監獄社会の到来を引き寄せることになるかもしれない。おれはとんでもないことをしたような気がするんだ」 
世界ががらっと変貌しますね、と青鹿秘書が感想を述べた。個人の秘密がなくなる時代の到来だとしたら、これほど息苦しい社会はないでしょうし。
善いことをしようと欲して悪事をなす、だと丈先生は淡々といった。
この8巻の本編は、東丈が雛崎ファミリーにクリスマスプレゼントを買いに街に行き、そこで50代の木村市枝に再会する場面で終わる。

東丈はここで初めて、(無印)幻魔大戦の“GENKEN”時代の記憶を取り戻すのだが、「何故、あの時失踪したのか」という彼女の切実な質問には答えられない。

ただ、今は子持ちの未亡人と結婚し、自分は仕合せだと語り、さらには、彼女に子供の有無をたずね、まだ結婚していないことを知ると、彼女に「もったいないことをしたな」と告げる。

この無神経とも思える東丈の一言を木村市枝がどう思ったかは分からない。
ただ、タクシーで去りゆく東丈が見た木村市枝は、明るくほほえんでいたというが、実際はどうなのだろう。

この章の最後は、ende? (ドイツ語)で締められている。
作者としては、幻魔大戦Deepの執筆を始めるにあたり、物語全体とあまり関連性のない、この章を、とりあえずのエンディングとして、あらかじめ用意していたのかもしれない。

しかし、作者も、このお茶を濁した終わり方ではさすがに終われないと思ったらしく、?マークのとおり、この後に、appendixとして、14篇の章が追加されている。


2017年6月25日日曜日

幻魔大戦Deep 6-7 /平井和正

第6巻は、2年前に亡くなった姪の東美恵の墓参りを済ませた東丈が、彼の事務所の前で秘書を襲おうとしていた江田四郎を見つけ、公園に連れ出し、自らを斉天大聖と名乗り、江田四郎がかける呪詛はすべて自分にはね来る念返しをかけたと、こっぴどく脅しつける。

一方、東丈を親分とあがめる雛崎みちるは、別世界に移る能力に目覚め、2年前に死んだはずの東美恵を自分の世界に引き連れてしまう。

東美叡と異なり、サイキック能力もない美恵は、三十年前に失踪した伯父が十七歳に若返ったこの別世界をなかなか受け入れられないが、東丈の説得により、雛崎家に居候することになる。

そして、台風の影響により頓挫するはずだったサンシャイン・ボーイとの面会は何故か実現し、東丈の口添えにより、サンシャイン・ボーイは、小学生の雛崎みちるが十七歳になるという不可能な夢をかなえることを約束する。

また、この面会に同席していた東美恵もサイキック能力に目覚め、別世界を行き来することができるようになり、もう一人の自分である東美叡との邂逅を果たし、振り子の能力も身につけることになる。


第7巻は、東美叡が追う“顔焼き男”の捜査を東美恵が振り子の力で支援するという話から始まる。そして、雛崎みちるは夢の中で、彼女が願った十七歳になる。

その彼女が十七歳として存在した世界は、1967年の(無印)幻魔大戦の世界だ。
1967年、秋。恐ろしいほどの粘着力をもって居すわった夏がようやく腰を上げて立ち去った秋だった。
この文章は、ニューヨークでの戦闘後、一人東京に戻った東丈が“GENKEN”という宗教団体を作ってゆく幻魔大戦の新たな展開のはじまりを示すような印象を与える。

ここでの驚きは、元気いっぱいだった雛崎みちるが珪肺症を患う病弱な女子高生として、違和感もなく、(無印)幻魔大戦の世界に同居しているという事実だ。この役柄を思いついた作者はすごい。

まだ悪魔化していない文芸部の久保陽子や、丈に嫉妬し攻撃をはじめる江田四郎。東三千子も登場する。

雛崎みちるは、その世界で井沢郁江と友人になり、 彼女の紹介で十七歳の東丈と会う。彼女は夢の話として、自分が元いた世界にる十七歳だけれど五十四歳の精神を宿した東丈の姿と振り子の力を語る。

そして、雛崎みちるの出現により、(無印)幻魔大戦とよく似たその世界は、大きな変化を起こす。
まるで、(無印)幻魔大戦にも、こういう未来があり得たのだ、と作者は言いたかったのかもしれない。

しかし、この世界、最初は(無印)幻魔と相似した世界なのではと思っていたが、江田四郎が雛崎みちるに対して丈に超能力で弄ばれた事実を認めているということは、やはり、同じ世界なのだろう。つまり、東丈がルナ姫とサイボーグのベガに無理やり超能力者として覚醒させられ、1967年の夏、彼らとともに、ニューヨークで怪獣タイプの幻魔と戦った世界なのだ。

この第7巻では、“顔焼き男”の捜査を支援していた東美恵が敵方の罠にかかり、それを助けに行った東丈も一緒に地下牢に拉致されてしまう。そして、その地下で謎の外国人の王女らしき人物が登場することになる。