2013年3月26日火曜日

真幻魔大戦14~15/平井和正

真幻魔大戦14「ムウの人狼」は、超古代世界のムー大陸の時代に、3万年後のギリシアの世界から、アポロ(東丈の前世)神託により送り込まれたクロノス(杉村優里の前世)が、マリ・ソル神殿に仕えるソル王女(井沢郁江の前世)らと、禁域である超空間に入り込み、死んだと思われたソニー・リンクスや、東丈の乗ったジェット・ライナーでともに行方不明になっていたジョージ・ドナー、出産間近のミチコ(東丈の姉)とその赤ちゃん(東丈)と出会う物語だ。

率直にいって面白い。前巻でこの世界に送り込まれた犬神小石が人狼ナルになったのかとか、好戦的な武人ダヅラは、田崎に似ているが好色な部分があるとか、巫女のフォーリアが、平山圭子の前世であるとか、ソニーが心に負ってしまった幻魔の暗い記憶とは何なのかとか、「無印」の登場人物との関係を思いながら読むのも楽しいし、何より、井沢郁江を思わせる応えない性格のソル王女と、気性が激しいクロノスとのやりとりが面白い。

15巻の「不死身の戦士」は、個性もてんでバラバラなこれらの登場人物が、ソニーのテレポーテーションで、誤って幻魔世界に足を踏み入れてしまうという物語で、これも面白い。

幻魔のイメージをストレートに表現した凶暴な恐竜のようなトカゲ人と人狼ナル、ダヅラとの死闘、ドナーと恋愛関係になってしまうピーター・ラビットのようなウサギ人少女ラチル、戦前の日本帝国陸軍そっくりの雰囲気を持つ犬人間の軍隊。

これだけ奇怪な登場人物と物語の環境を作り上げた作者の想像力は素晴らしい。
現代の世界では地味な戦いになってしまった「幻魔大戦」が、ここにきてようやく派手な花を咲かせているという感じだ。

2013年3月18日月曜日

真幻魔大戦11~13/平井和正

真幻魔大戦11「妖惑者」、12「魔の山」、13「験比べ」は、飛鳥時代の大峰山脈に、杉村優里がタイムスリップし、東丈の前世である役の小角に出会う物語だ。

その世界には、”鋼鬼”と呼ばれる記憶を失ったサイボーグ・ベガが小角に従者として仕えており、小角の異母妹として、杉村由紀の前世である雪野がいる。

また、CRAの創始者と思われる謎の人物 大角重の前世と思われる小角の父親”大角”がいて、”月影”の前世とおもわれる犬神一族の”せぐろ”がいる。

ここでは、杉村優里の出現により、修行を棒に振り色に迷ってしまった修験者 大足と、彼女の超能力に、正常な子が生まれないという一族の存続を賭けようとする犬神一族、杉村優里の前世である”クロノス”を知る大蛇と化した幻魔、優里と話すうちに徐々に東丈の意識を持ち始める小角が描かれている。

大足や大角の淫らな性欲、小角と大足の超能力対決、小角と犬神、ベガと犬神の対決、さらにはPK能力を発揮しはじめた優里と大足、優里と犬神の女との対決など、作者お得意の若干下品とも思えるセックス描写とアクションの場面が、これでもかと続く。

正直、ほとんどが山の中での話なので、時代背景を飛鳥時代にする必然性は、東丈の前世を役の小角にすること以外、ほとんど感じられない。

しかし、物語最後に、時空の門の前で、小角が東丈の、さらにはアポロの意識を取り戻し、ベガも自らを取り戻し、丈にルナ王女やソニー・リンクスの所在を尋ねる場面は、過去の物語がつながり、一歩進展した感がある。

この後、物語は、超古代文明が繁栄していたムー大陸に舞台を移す。

2013年3月17日日曜日

真幻魔大戦9~10/平井和正

真幻魔大戦9「秘密預言書」、10「鬼界漂流」。

ニューヨークからロスへと向かうジェットライナーから消えた東丈とその関係者。
それを日本でサイキックな感覚で察知し、丈の行方を捜す秘書の杉村優里。
ここからは、彼女が主役となって物語が進んでいく。

失意に沈む優里を襲う諜報機関らしき男たち、夢魔の攻撃、そして、彼女を庇護しようとする人狼の”月影”と出会う中、優里は、自らの精神の中に、時を継ぐ者”お時”と”ムーンライト”の意識に目覚める。

そして、この9巻では、東丈の前世、由井小雪だった頃の「新」幻魔大戦とのつながり、10巻では「無印」幻魔大戦とのつながりが明らかになる。

CRAという秘密教団が優里に接触し、彼女はそこで、「無印」の活動舞台であったGENKENに属していた人々、菊谷明子、井沢郁恵、木村市枝、平山圭子と父親の圭吾、田崎、河合康夫らと出会い、「無印」での記憶、杉村由紀(優里の母親)の記憶を取り戻す。

CRAは、大角重という「無印」では登場しなかった人物が興した預言教団で、「無印」の世界の記憶を取り戻したGENKENのメンバーたちの受け皿となり、その盟主である東丈の帰還を待っていたのだ。

個人的に興味深いのは、このCRAに顔を出さない人たちである。
その代表が高鳥慶輔であるが、文中、CRAのメンバーとの会話でこんな気になる言葉が出てくる

「初めての講演会の後、彼が来て…ほら、あのカッコいい彼だよ。名前、なんていったっけ、そう、そうだった。あれが結局、超能力者全員集合のきっかけだったな。あの後いっせいにいろんなことが起きたんだ…」

初めての講演会といえば、クリスマスの日に東丈が行った講演会で、その後に来た目立つ人物といえば、高鳥慶輔ぐらいである。
あの後に起こったという「いろんなこと」も気になるが、「名前、なんていったっけ」という存在感のなさにも驚く。

また、久保陽子や江田四郎については、「無印」の世界での敵として明確に認識されているのに、彼については一言も触れられていない。

この旧GENKENのメンバーに出会ったことで、杉村優里は、時を継ぐ者として、失踪した東丈を探す役割を認識するのだが、彼女の探索は、現代ではなく、過去に対して行われるものだった。

この後、、杉村優里は、木村市枝とともに、風間蘭の住まいを訪ねた際、異次元の入口に足を踏み入れてしまい、飛鳥時代にタイムスリップしてしまう。

2013年3月16日土曜日

真幻魔大戦7~8/平井和正

真幻魔大戦7「サイキック・ゲーム」と8の「ソウル・イーター」

映画のレセプションと行方不明になった姉と弟を探しに、ニューヨークに来た東丈。
彼は、ここで、姉と弟の行方を捜すべく、著名な心霊能力者であるデビッド・ロートンに出会う。

丈とロートンが行う”サタン”の存在をめぐる議論は、この真幻魔大戦で描かれる唯一の宗教をめぐる考察かもしれない。

”サタン”について話し合うことになってしまったのは、丈が、タイガーマンなど、邪悪な心霊的勢力にさらされているせいなのだが、同時に、”善”のサイキック・パワーに守られていることをロートンに霊視される。

ここで、丈がきっぱりと表明する”サタン”という中世的な存在に対する嫌悪感と拒絶は、ある意味、常識的なものだが、物語としてつまらないものになってしまわないのは、ニューヨークに来てから見せるおかしなまでの東丈の強気の魅力だろう。

彼はアメリカ人たちに全く下手の姿勢をみせず、英語もしゃべることができるのに、あえてしゃべらず、かなり強気な上から目線の態度で物事に当たっていく。

その最たるものが、CIAに拉致された時の対応で、丈と連れの亜由を暴力で脅迫しようとする諜報員に対して見せる明確な拒絶と侮蔑の言動だろう。

暴力にも屈せず、敵方であるクェーサーが送り込んだチャーリーズ・エンジェルのような三人のサイキック美女の誘惑も、義妹の誘惑も軽くかわし、ガールフレンドの突然の嫌悪にも動じず、東丈は、全く超能力を行使していないにもかかわらず、ある意味、無敵の状態になっているのだ。

しかし、そんな東丈と彼を取り巻く敵と味方が搭乗したロスへと向かう飛行機が、”サタン”の攻撃に襲われ、墜落の危機に陥る。

丈が、その破滅の瞬間、ルナ姫と邂逅することで、「無印」のときの記憶を取り戻し、救世主としての力を復活させるシーンがこの物語の一つのピークをなしているのは間違いないだろう。

しかし、恐ろしいことに、作者は「無印」同様、ここで、また東丈を行方不明にしてしまうのだ。
ウーン!!

2013年3月12日火曜日

NHK【ETV特集】何が書かれなかったのか~政府原発事故調査~

政府原発事故調査委員会の元委員が再び集まって事故調査への不満に関して率直な思いを述べた三時間の記録。

http://www.nhk.or.jp/etv21c/file/2013/0310.html

☆元委員の主な発言

・事故対策で日本は海外に遅れていた。
 たとえば、アメリカの原発では備置されている簡易移動型のバッテリー機器などが福島の原発にあれば、メルトダウンは防げた可能性がある。(技術顧問)

・官僚が書いた文章だから手堅いが、読み手(ユーザ)を意識していない読みにくい報告書になった。
・原発事故による被害の全貌が分からぬまま、幕引きになってしまった。(女性弁護士)

(そもそも、この事故調査委員会には、裏方に検察庁、法務省、財務省などの官僚で構成された事務局があり、関係者への聞き取り調査や、報告書の大部分の執筆を行っていた事実がある)

・被害者の声をもっと聞くべきだ。継続的な調査を行うべきだ。(川俣町長)

・事故の再現実験をやるべきだ。事故の後に何が起きるのかを知るべきだ。
・特に、何故、圧力容器の水位計が誤った数値を示していたのかの再現実験をすべきだった。
このような誤りを起こす水位計は日本の原発の半数でいまだに使われている。(委員長の畑中洋太郎)

・原子力機構を担っている官僚機構の問題。この国は、中央官庁の課長級クラスが権限を持ち、物事を決定しており、その課長の能力次第で左右される。
・例として、オフサイトセンターで、放射性物質を遮断する空気浄化フィルターが設置されていなかった問題(これが原因でオフサイトセンターは今回使い物にならなかった)があり、総務省の勧告を受けながらも、何故対応しなかったか、対応見送りを誰が決めたのかまで追求できなかった。(技術顧問)

・緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)が全く有効に使われなかったこと。発案した担当者の思想が後任者に引き継がれていなかった(放射線専門家)

・審議官クラスだけを実名として挙げても駄目で、どこのセクションの誰がそのような意思決定をしたのかが分からないと、問題の根本的な原因は分からない。報告書では、責任追及しないというポリシーだったため、幹部以外は組織名も明らかにできなかった(科学史専門家)

(実は原子力規制委員会の課長クラスも、旧保安院の課長クラスがスライドしてきただけという事実もある)

・総理大臣が30分でも1時間でも、この報告書に関して、委員と意見を交わす時間を持つべきだ。(川俣町長)

・政府事故調、国会事故調、民間事故調、いずれも報告が出ているが、決定版が出ていない。(技術顧問)

この番組をみて、つくづく思ったが、報告書を出せば、はい終わり、ではないのだ。
これだけの労力をかけて作成した報告書を生かすためには、原子力行政に対する定期的なチェックも必要だろうし、今回三時間でこれだけの問題点が挙がってきたということは、さらに調査・検討が必要になってくるだろう。

たとえば、廃炉までの40年間、国として、今回の委員に匹敵する人材を集めた事故調査委員会を設置し、継続的な調査を行ってもよいのではないだろうか?

2013年3月11日月曜日

NHKスペシャル メルトダウン 原子炉"冷却"の死角

2年経った今も、東京電力福島第一原子力発電所の事故が、何故起きてしまったのか、十分な解明ができていない実態が明らかにされていて、非常に興味深かった。

http://www.nhk.or.jp/special/detail/2013/0310/

http://datazoo.jp/tv/NHK%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB/628632

NHKスペシャル「メルトダウン 原子炉"冷却"の死角」では、1号機と3号機で、何故メルトダウンが起きてしまったかを詳細に検証していて、

1号機では、全電源喪失でも動くはずの非常用復水器(イソコン)が止まっていたことに、東京電力の現場の人たちが気づかなかった原因について。

・電源がなくても動くはずだという思い込み。
・1号機の水位計の水位が2メートル近く下がっていることがわかったが、2号機の電源がないと動かない冷却装置の方に気をとられていた。
・ブタの鼻と呼ばれる換気口から出る水蒸気で、イソコンが動いているものと誤認した。
 実際に動いているときに、どのような水蒸気が出るのか、誰も知らなかった。

3号機では、消防車による代替注水(注水ホースをパイプにつなぎ、原子炉に水を入れる)という方法がとられていたが、原子炉に向かうはずだった大量の水が、途中、復水器という別の抜け道に流れていってしまった可能性が高いという。
復水器に入る水を止めるためのポンプが電気がなくなったことで止まっていたことが原因らしい。

イタリアの実験施設で行った実験の結果から試算したところ、消防車から注水した55%が復水器に漏れ出たことがわかった。
専門家の意見では、もし、消防注水の水が原子炉に75%以上届いていれば3号機のメルトダウンは防げた可能性があったという。

こういった事実は、NHKの独自取材で浮かび上がってきた事実ということで、国会事故調査委員会でも指摘されていない事実だという。

そして、日本の他の原発では福島の事故以降も、消防車や給水ポンプの配備は進められているが、実際注水した時に抜け道がないかどうかの検証は行われていないという。

もっと深刻なのは、4号機のプールに蓄積されていたあった燃料棒の冷却機能が失われていた際に、高い放射能のため、現場では作業員が近づくことすらできず、手の打ちようがなかったということだ。これは、幸いにも、水素爆発で建屋が吹き飛び、上からの注水が可能となって、メルトダウンだけは避けられた。
(もし、メルトダウンが起きていたら、最悪、関東圏も避難区域となっていた)

そして、この4号機のメルトダウンの危機回避のための検証もまだされていないという。

こういった検証をNHKが行っているのはすばらしいことだと思うが、何故、国が、東電がやらないのだろうか。
それでいて、何故、原発を再稼動して問題ないと言い切れるのだろうか。

2013年3月10日日曜日

真幻魔大戦5~6/平井和正

東丈は、自身が書いた小説を原作とした製作費100億円もの救世主映画のレセプションに出席する。

何となく80年代のバブルっぽいエピソード。

ここで、東丈は「無印」でみせたような、聴衆を魅了するスピーチを行うが、ムーンライトを連れ去った風間亜土という美少年が映画監督として会場に登場することで、主役の座を奪われてしまう。

このムーンライトを連れ去った風間亜土という美少年や、その亜土にそっくりな蘭という妹が登場するのだが、いまひとつ人物の描き方として奥行きがない。
読者として、何となくイメージしづらいのだ。

また、この5巻では、東丈がスタイリストの中田亜由と一緒に寝るシーンがあるのだが、この女性も何となく影が薄い。
東丈がセックスの喜びを感じないように肉感的な部分を切除された女性にされてしまっている感がある。
こんなところに、この主人公の悲劇性を感じてしまうのは、私だけだろうか。

東丈が、映画の記者会見で見せる、しつこい記者の質問をかわす、意外に世慣れた場面や、事務所に突然押しかけてきた気の触れた気味の悪い男を、これまた手際よく対応する場面のほうが、意外と面白い。

反対に、6巻では、丈の弟の妻である洋子と、友達である久保陽子が、丈に化けた幻魔が夢魔として夜毎訪れ、犯されるシーンが生々しく描かれていている。

しかし、幻魔に襲われたからといって、なぜ、東丈はここまで久保陽子に冷たいのだろう。
もとはといえば、丈がずっと付き合いながらも男女の関係に踏み込まなかったことが原因なのだ。
高校時代からの付き合いであれば、もっと親身になって助けてあげてもよいのではないかと思ってしまう。

「無印」で東丈が一時期見せていた優しさや繊細さは、「真」ではあまり感じられない。
ある意味、倨傲なトーンが強いのだ。
(幻魔に付けねらわれる東丈が無意識に自分を守るべく意識を閉じていると説明できるとは思うが)

この6巻では、高次元意識体リアリー、アル・クラウドらと、意識体と化して招待されたムーン・ライトが話し合う、まるで、チェス盤をにらむ神々のような様子が描かれており、幻魔大戦の裏舞台、すなわち、「新」→「無印」→「真」と、幻魔との戦いで地球が滅亡してきた経緯と、その真の目的が説明されている。

ある意味、おかしいのは、その高次元意識体らの話す内容が非常に分かりやすいということで、
人間世界の「無印」における東丈の失踪のほうが、よっぽど謎めいていて高次元っぽいということだ。

2013年3月9日土曜日

NHKスペシャル 3.11 あの日から2年~大川小学校 遺族たちの2年~

宮城県石巻 大川小学校では、あの震災の日、津波で全校児童108人のうち70人が亡くなり、4人が行方不明、先生も10名亡くなられた。

番組では、亡くなった子供たちを未だに思い続けている遺族が紹介されていた。

子供たちと一緒に作っていた自家製キムチに子供たちの名前をつける祖父、
小学校六年生の娘を失い、自分がその場にいたら救えただろうかと自問する中学校の教師。

そして、自分の息子が子供たちを守れなかったことを申し訳なく思い、息子への思いも公言できず、ひっそりと暮らしている、亡くなった二十代の教師の両親。

この番組でもっとも印象に残ったのが、その教師の両親が、「私たちはその場にいた先生を責めるつもりはありません」というコメントを亡くなった生徒たちの遺族が記者会見で述べたことを新聞記事で読んだときに救われたという話だった。

思いは言葉にして表現することが大事なのだと改めて思った。

道義的に見ても、その教師の両親が責められるべき立場では決してないのに、亡くなった息子の思いをまるごと受け止め、息子が救うことができなかったクラスの生徒たちの写真を畑仕事に行く際にずっと持ち続けている姿に心を打たれた。

震災後、その両親が葉牡丹を育てている畑の隣で、畑を耕していた婦人が、両親と話を交わすようになり、ふとしたことで写真を見つけ、その教師のクラスに亡くなった自分の孫がいたことをはじめて知ったという。

その婦人の勧めで、両親が育てた葉牡丹が大川小学校の中庭に飾られたという話に、どことなく安堵感を覚えた。

あれから、もう少しで2年。
でも、いまだに失った人々を思い続け、悲しみに耐えながら日々を静かに過ごしている人たちがいるのだということを忘れたくはないと思った。

2013年3月6日水曜日

真幻魔大戦3~4/平井和正

真幻魔大戦3「スリーピング・ビューティー」は、超多国籍企業クェーサーの極秘資料をムーンライトから手渡されてから、東丈に起きる様々な異変を描く。

突然、襲い掛かってきたムーンライトのボディーガード、高熱を出し超能力者となった東三千子、東丈を性的に誘惑する久保陽子(また、こんな扱い)。

しかし、この本の中で、一番面白かったのは、「無印」で五歳だった天才幼児ソニー・リンクスが少年になった姿が見られたことだ。

彼は年をとって、人間的には明らかに成長しているのだが、人格形成とは反比例に、テレポーテーションの力を弱めている。

ソニーは、クェーサーに反旗を翻したライアン機長の恋人スーザンをクェーサーの特殊工作員から救い出すのだが、自らはクェーサーのサイキック部隊に襲われ命を落とす(落としたと思われる)。

このソニーの最後の姿が最初に読んだとき謎だった。

エレベータのゲージに頭と右手を突っ込んで肉体と鋼板が融合している姿は、何となく、スターウォーズⅤ(帝国の逆襲)で、ハン・ソロがかけられたカーボン・フリーズのようなことになったのかなと思っていたのだが、これは、やはり、ソニーがテレポーテーションしようとして、力尽きてしまった姿なのだろう。

4巻の「メサイア・メーカー」は、東丈が書いた小説を原作として、百億円もの制作費をかけて救世主映画を作りたいという石室というプロデューサー(なんとなく、角川春樹っぽい)が現れる。

そして、そのプロデューサーの秘書が杉村優里(実は「無印」の杉村由紀の意識を持つ)だったが、彼女の強い希望で、東丈の秘書になる。

東丈には、相変わらずトラブル(攻撃?)が襲い掛かる。
仕事仲間の奥さんがヤクザに寝取られ、その後始末を引き受け、ヤクザに襲われる。
姉の三千子は突然姿を消し、丈の弟の卓がニューヨークで行方不明になり、その妻である洋子が、もともと気があった義兄の丈に性的誘惑をかける。

思えば、この巻にいたるまで、幻魔は姿を見せず、いずれも人間の悪しき行動にその影が見えるだけだ。まるで、ジョーカーがないババ抜きみたいに。

2013年3月5日火曜日

パン屋を襲う/村上春樹を、チラ見して

カット・メンシックの表紙に惹かれて、ついつい手にはとってしまったが、中身にはあまり気がひかれなかった。

もともとの小説「パン屋襲撃」も「パン屋再襲撃」も好きな作品だが、個人的に、こういう昔の作品を、ちょっと手直しして再販するやり方があまり好きでないのだ。

二つの作品をくっつけて一冊の本にしてしまうのも、何かいただけない。
私などは、「パン屋再襲撃」を読んだあと、村上春樹の全集を読んでいて、「パン屋襲撃」を発見し、本当にあったんだと妙に感動したときの気持ちが忘れられない。

「パン屋襲撃」は、どことなく、気ままに書いて打ち捨てられた雰囲気を持つ作品のような気がして、全集にようやく顔を出すぐらいが俳味が利いていいなと個人的に思っていた。

それが、こう二つをくっつけてしまうと、何か直截すぎる感じがする。

そして、よせばいいのにページをめくってしまい、<ソニー・ベータ・ハイファイ>の文字が、<ソニー・ブルーレイ・レコーダー>に書き換えられているのを見て、さらにげんなりした。

私のイメージからいって、あの時、「僕」が見上げた空は、絶対に80年代の空でなければならない気がするのだ。

まだ、世界が重苦しい空気に覆われていない80年代の東京の夜明けの空、当時のハイテク製品のイメージとして、画質が売りだった<ソニー・ベータ・ハイファイ>はとてもぴったりくるのだ。
いまや、ブルーレイなど、どこのメーカーだって作っている。

作者は、最近の読者を想定して、ベータビデオなんて分からないだろうと、わざわざ親切にもブルーレイに代えたのかもしれないが、注釈でもつければいいのではないかと思ったりした。

これは、90年代にこの作品を読んで、’80年代の軽い空気感に魅せられた者の一人としての意見だ。
もちろん、チラ見程度なので、ちゃんと腰を据えて読めば、それなりに新しい良さも感じられるのかもしれない。でも、自分はたぶん駄目だろう。

2013年3月4日月曜日

双頭の船/池澤夏樹

震災復興のファンタジー作品とでも言うべきか。
でも、一気に読んでしまった。

不思議な話だ。
目的を見失い、物事の決断もできず彼女にも振られそうな主人公トモヒロが、高校の恩師の進めで、フェリー「しまなみ8」に乗船することになる。彼はそこで自転車を修理する仕事を与えられる。

船にはたくさんの放置自転車が運び込まれ、それを整備して、津波に襲われた被災地に届けようというのだ。船には、二百人ものボランティアが集まり、夜は船で寝て朝には被災地に下りて仕事をする。廃材を使って沸かしたお風呂もあり、美味しいうどんを作る食堂もある。

そのうち、様々な人々が船に集まり始める。

熊を北海道から岩手県まで、ベアマンと自称する奇妙な男とワゴン車で運んだ女性。
たくさんの犬や猫たち(実は死んだペットたち)を引き連れてきたヴェット。
金庫の鍵を開けるのが天才的に上手い自称金庫ピアニスト。
船上に仮設住宅を作るべきだと主張してきた押しの強い老人。
夫と子供の一人を亡くし、同じく妻と子供を亡くした二組の家族。
シベリアから北海道にオオカミを運ぶ仕事を依頼する世界動物連合の代表とベアマン。
夏祭りの日に音楽を演奏し、船に残っていたたくさんの死者を連れ去ったペルーのアマチュアミュージシャン。

最初、さえないフェリーだったはずの「しまなみ8」が、人々のたくさんの希望を乗せていき、船の名前が「さくら号」と変わるころには、家が数件建つほどの巨大な船のイメージに変わっていくのが面白い。

また、物語の最後のほうで、人々が死者に近い墓がある陸地に戻るか、さらに遠洋に船を進め、世界を旅しようという二派に分かれるのだが、後者の冒険派を否定的に描かないところも面白いと思った(物語でも被災の現実から逃げるのではないかという非難がでてくる)。
それどころか、冒険派が独立国家を目指し、ひょっこりひょうたん島の歌をもじった国歌斉唱まで描き、どこか楽しんでいる。

あくまで文章は軽く明るい。しかし、物語は童話めいているが、ところどころにあの震災の重さが感じられた。
死者への思いは消えず、そして、まだその再生の途中なのだと。

一つ物足りないと個人的に思ったのは、爆発で空が壊れてしまったところ(原発避難区域)のエピソードも読んでみたかったということだ。

これは、よくばりな発言だろうか。

2013年3月3日日曜日

真幻魔大戦1~2/平井和正

「真幻魔大戦」とは、いわゆる角川文庫版の「無印 幻魔大戦」と時期的に並行して書かれた、「無印」とは別世界での幻魔大戦の物語である。
当時は、徳間文庫版全18巻で読むことができた。

「無印」の世界では、1967年に戦いは始まるが1968年に幻魔にあっけなく破れ、地球は壊滅することになるが、「真」では幻魔の侵攻がまだ始まっていない12年後の1979年から物語が始まる。

登場人物も、主要人物である、東丈、三千子、ルナ姫、ソニー、ベガが登場するが、丈は29歳(無印では17歳)、ルナ姫はアルコール中毒で三年前に他界(その代わり、妹のリア姫が登場し、彼女の体に霊体として時に現れる)、ソニーも16歳ぐらいの少年になっているが多少、超能力に陰りがみられ、ベガは幻魔により、別の時空に飛ばされてしまっている。

丈の秘書であった杉村由紀もすでに他界しているが、彼女の娘である優里に、杉村由紀の意識が宿って登場する。

何故、このような別世界が存在しているのかというと、時間跳躍者である”お時”(この物語では、”ムーンライト”と名乗っている。彼女は「新幻魔大戦」というもうひとつの物語で描かれた別世界から来た)が、幻魔に打ち勝つべく、過去にタイムスリップして、人類に超能力者の血統を宿し、育てることで、幻魔との戦いに負け壊滅した地球の運命を変えようとしたことによる。

                  やり直し
「新」幻魔大戦(1999年滅亡)→→→→ 「無印」(1968年滅亡。失敗)
                 ↓       ↓
                  →→→→  「真」(12年後の世界)


真幻魔大戦1「ビッグ・プロローグ」では、ルナ姫の妹である第三王女リア姫が、アメリカへと向かうジェット機のなかで、ムーンライトに出会い、ルナ姫が降霊し、彼女が経験したフロイとの遭遇、幻魔大戦への召集を追体験するところから始まる。

リア姫が訪米する目的は、彼女のテレパシストとしての超能力を、多国籍企業クェーサーのカトー社長に買われたことによる。「無印」の冒頭でルナ姫を支援するメイン社長の会社を乗っ取ろうとしたカトーが、あと一歩のところでその陰謀を見破られ、敗退してしまったが、この世界では、超多国籍企業の帝王としてすでに君臨し、その取り巻きである醜悪な超能力者ドクター・レオナード・タイガーマンが力を振るっている。

このタイガーマンは、非常に輪郭がくっきりと描かれていて、ある意味、魅力的な悪役である。

第2巻「ESPファミリー」では、そのドクター・タイガーマンに催眠をかけられ危機に陥ったリア姫を、ムーンライトの力を借りた気弱なテレパシスト  ジョージ・ドナーの働きで、彼女の深層心理にいるルナ姫を呼び出し、危機を脱す。
一方、日本にいるムーンライトは、作家で超能力研究者である東丈と出会い、彼にクェーサーの超能力戦略を証拠づける極秘文書を手渡す。

当時、「真」は、「無印」と同じ世界で、アメリカでのルナ姫たちの活動を描いた作品ではないだろうかと勝手に期待して読み、ひどく気落ちしたのを覚えている。

パラレル・ワールドというのも、SFではおなじみの概念だが、この考えでいくと、人類は幻魔に負けても、何度でもやり直しができてしまうような気がして、「無印」で感じる緊張感や絶望感が「真」の物語では弱くなっているのは否めない。

作者は、1979年から1984年にかけて、ほぼ同時期に「無印」と「真」を書き続けた。「無印」がどんどん、精神的な内面に傾斜し、物語がゆっくりとしたペースで進んでいくのと正反対に、「真」では、宗教的な部分にはあまり触れず、どんどん物語がダイナミックに動いていく。