2018年3月24日土曜日

NHKの英語番組改編 雑感

NHKの英語番組が、2018年4月から大きく変わることを、いまさら知り、驚いている。
私は、そこそこの視聴者で、今は以下の番組を視聴している。

●テレビ
・しごとの基礎英語 講師:大西泰斗
・ニュースで英会話 講師:鳥飼玖美子、井上逸兵

●ラジオ
・高校生からはじめる 「現代英語」 講師:伊藤サム
・ラジオ英会話 講師:遠山 顕
・入門ビジネス英語 講師:柴田 真一
・実践ビジネス英語 講師:杉田 敏

まず、テレビ番組で大きく変わるのは、「ニュースで英会話」が無くなってしまうことだ。これは、20分程の世界情勢を伝えるニュースを英語で聞くという番組で、個人的には好きだったので大変残念に感じている。
後継番組が「世界へ発信! SNS英語術」という、訳が分からなさそうな内容のタイトルで、若干不安を感じる。まさか、トランプみたいな人間を目指そうというのだろうか。

それと、「しごとの基礎英語」が終わった後、例年だと、「おとなの基礎英語」(講師:松本 茂)なのだが、今年は「おもてなしの基礎英語」(講師:井上逸兵)になるようだ。

ラジオ番組のほうは、何といっても「ラジオ英会話」の講師が大西泰斗に変わること。4月のテキストをチラ見してみたら、「一億人の英文法」と同じ絵が使われていて、分かりやすそうな感じ。大西泰斗は、「しごとの基礎英語」でも、軽妙だが、分かりやすく英語の単語や文章の意味を解説しているので、これは期待できるなと思った。

遠山 顕の「ラジオ英会話」も、いかにもベテランの手慣れた感じの番組構成で悪くはないのだが、ダイアログの内容が多少老人ぽいのと、月末になると1回は昔のフォークソングを出演者が歌う日(笑)があるので、若い人(学生)向けではないなと前から感じていた。
一昨年は病気で番組を休んでいた時期もあったので、世代交代もやむなしという感じだと思う。なお、「遠山顕の英会話楽習」という番組が新たに始まるらしい。

私が一番熱心に聞いている「実践ビジネス英語」は継続で本当に良かった。
この番組、講師の杉田 敏の力なのだと思うが、ビニエットのテーマが、今のビジネスのトレンドとずれておらず、かつ、1年間、毎月違うテーマを取り上げて、英語テキストを作り上げるという途方もない事をずっと続けている。コスパが最も高い英語番組と言ってもいいと思う。
パートナーのヘザーさんとの会話もビジネスライクで余計なことを言わないのがいい。

NHKのページに、番組改編のコンセプトが載っていたが、新学習指導要領、グローバル化対応ってやつみたいですね。(なんとなく、げんなりしてしまう)


2018年3月21日水曜日

蓬生/源氏物語 上 角田光代 訳/日本文学全集 4

蓬生の巻は、光君が、かつて気まぐれに情けをかけた常陸宮の姫 末摘花との再会を描いた物語だ。

末摘花は、荒れ果ててさみしい邸に住んでいて、気の利いた会話や歌詠みもできず、胴長で顔の下半分がやけに長く、鼻先が赤いという、パッとしない姫君だが、光君が須磨に流されても、辛抱強くその帰りを待ち続けていた。

光君の援助で一度回復した屋敷は、ふたたび荒れ果て、草木が生い茂り、狐や梟が住み着くようになる。そのうえ、下級役人に嫁いだ叔母からは、何のたくらみか、姫君を連れて地方に下向する誘いをかけられ、断ると、お付きの侍従を誘い、侍従も姫に同情しながらも叔母について行ってしまう。

一方、須磨から戻った光君も再会した紫の上にばかり気が向いて、末摘花について時折思い出しても訪ねようとはすぐに思わない。それでも、一層寂しくなった屋敷で、末摘花は待ち続ける。(この忍耐も、才能というものかもしれない)

結局、光君は末摘花の屋敷を再び訪れ、放っておいた彼女に対する罪悪感もしくは憐憫から、経済的援助を再開し、二年後には光君の本邸の傍の邸で暮らせるようになる。

この巻でも、軽い気持ちで関わった男女の宿縁がたやすく切ることができないものになってしまうことを感じさせるが、作者 紫式部の口の悪さも際立っているのも面白い。

例えば、末摘花を、「木こりが赤い木の実を顔につけたままでいるように見えるその横顔は、ふつうの人ならとても見るにたえないだろう」と言ったり、

末摘花を気にかける光君を、「何から何まで人並みにも及ばない人を一人前に扱うのは、いったいどんなつもりだったのでしょうね。」と言ったり、

終いには、「何しろ頭が痛いし、面倒で億劫だし、あまり気も進まない」と物語の続きを語るのを止めてしまっている。



2018年3月19日月曜日

悪徳学園/平井和正

久々に、犬神明に会ったような気がした。
本作は、若い方の犬神明の第一作「狼の紋章」の原形のような作品だ。

不良学生の掃きだめのような中学校に、美しい女教師 斎木美夜が現れる。彼女は、卑猥な言動を繰り返す不良学生たちを無視し、一人の男子生徒だけ、特別扱いをする。
その学生の名前は、犬神明。不良学生たちから手ひどい暴力を受けても、抵抗せず、超然としてそれを受け流している。

しかし、犬神明を慕う同学年の郷明日子の言動と斎木美夜の特別扱いに、劣等感を刺激された不良学生たちが、郷明日子を暴行し、次いで、斎木美夜を拉致したことで、ついに、犬神明は、不良学生たちと戦う決意をする...という物語だ。

「狼の紋章」と大きく異なるのは、犬神明の運命的な女性 青鹿晶子が現れないところだが、そのせいかもしれないが、この物語は重苦しい情念さに深入りしない一定のクールさを保っている。

斎木美夜は、犬神明に関心を抱くが、彼に庇護してもらわないと生きていけないような弱さを感じさせない。不良学生たちに拉致されても恐怖を感じない強さを持っている。
彼女のキャラクターのウルフガイ・シリーズでの後継者という点では、青鹿晶子ではなく、石崎郷子なのかもしれない。

犬神明の斎木美夜に対する思いも一定の距離感があり、また、彼女を救うための不良学生たちに対する攻撃も最小限に抑制されており、本物の野生の狼のような所作が際立っている。

今の時代にどちらの作品が適しているかと問われたら、私は「狼の紋章」より、この「悪徳学園」のクールさを買うかもしれない。


2018年3月11日日曜日

ゲド戦記VI アースシーの風/アーシュラ・K・ル=グヴィン

ゲド戦記最後の物語 アースシーの風は、死者の悪夢に悩まされるまじない師のハンノキがゴンドで隠居生活を送っているゲドを訪れるところから始まる。

4作目の帰還でゲドと一緒に暮らしていたはずのテナーとテハヌー(テルー)は、新たな王となった レバンネンに呼ばれ、ハブナーにいる。
彼女らが呼ばれたのは、竜たちが暴れだし、人間たちに危害を加えるように原因を探るため、竜のカレシンの娘であるテハヌーに竜との接触を依頼するためであった。

そして、テハヌーと竜の接触により、休戦協定が結ばれることになり、竜の使者として、前作で竜になったドラゴンフライこと、アイリアンが現れる。

アイリアンは、人間が魔法を使い不死を求めたため、世界の均衡が崩れ、竜たちが人間に怖れを抱いていることを明かす。
そして、レバンネンとテナーとテハヌー、アイリアンたちは、竜のカレシンが世界の中心と呼ぶ“まぼろしの森”があるローク島に向かう。

そこで、一行は、ロークの魔法学院の長たちと会い、竜と人間が最初は同じ種類の人間だったのに、別々のものを求め出し、別々の道を歩むようになったこと、また、一部の人間たちが永遠の命を願い、魔法の力で石垣を作り、死者が死ぬことのない世界を作ったことが明らかにされる。その世界は、かつて、ゲドとレバンネンが魔法使いのクモと戦った世界であり、ハンノキが見る夢の死者たちの世界だった。

ハンノキとテハヌー、レバンネンとアイリアンたちがその世界に降りてゆき、石垣を壊そうとする...という物語だ。

この最終巻を読むと、結局、ゲドとレバンネンがクモを倒した後も、まだ、世界は均衡を取り戻していなかったことが分かる。そして、その最後の仕上げは、年老いた男のゲドではなく、若い女のアイリアンと自己の存在に目覚めたテハヌーの力によってなされる。

まるで、3作目の「さいはての島」でレバンネンとゲドで果たそうとした世界の均衡を、女性の力を前面に出して、さらに高みに持っていこうと書き直した作品のような印象を覚えた。

そして、大賢人ゲドの肖像は、まるで幻想だったかのように、一人の女性に愛される普通の男に描き替えられた。この物語の最後に描かれる、ゲドどテナーとの幸せな再会は、作者が最も描きたかった場面だったに違いない。