2023年6月10日土曜日

詩歌川百景 3 /吉田秋生

この巻は、人間の闇を取り上げていて、漫画とはいえ、読み応えのある内容だった。

とりわけ、びっくりしたのは、次の3点。

1点目

類の母親がカルト宗教にはまってしまったのだが、全く理解できないという類に対して、医師の“愛ちゃん先生”は、こういうのだ。

「ありえない形のジグソーパズルのピースがあらまビックリ!ぴったりハマっちゃった、みたいな感じ。それは誰にでも起こりうること。あなたにだって思いもよらないジグソーパズルのピースがあるかもなのよ。もちろん私にも」

こんなにしっくりとくる言い回しは、今まで聞いたことがない。

理解できない→拒絶というゴールの先が見えた感じとでもいうか。

2点目

主人公の和樹と妙が暮らす河鹿沢温泉は、原光司のような異分子が居るにせよ、ある意味、平和で温かい世界なのだが、類が同性愛者であることを告白したとき、町会議員の宮本が、自分の地元についてこんなことを言う。

…だが性的少数者とかそういうことを身近なことだと思った者はおそらく一人もいないかもしれない。田舎の共同体はよくわからないものには敏感だ。

無知と警戒感が限界に達した時、共同体は牙をむく…

この物語の舞台となる社会について許容限界をこれほど客観的に指摘するということは、この物語が単なる“癒し系”ではないことを示している。

3点目

第十二話の「解けない謎」は深い。これは1巻で和樹がすれ違った登山者である大学生の遭難事故の原因を、海街のすずの姉が嫁いだスポーツ店の店長と一流のアルパイン・クライマーが科学的な観点で分析する物語だが、スポーツ店の店長は最後にこんなことを言う。

何があったか、本当のことは本人にしかわからないんだよ。…でも…解けない謎に苦しむのはその人を愛した人たちだからね。

人間のかかえている闇は分からない。ただ、それを拒絶したり、無視することなく、少しでも努力してその人を理解しようと、原因を知ろうとする気持ち。

そういう重たいテーマを感じる作品だった。