2011年11月12日土曜日

マーロン・ブランドという男/夏の朝の成層圏

池澤夏樹の最初の長編「夏の朝の成層圏」は、遠洋マグロ漁船から誤って海に落ちた主人公が、南の島に漂着し、文明から離れた生活を体験するという作品だ。

単純な漂流記になっていないところが面白い小説で、主人公が殆ど無人島に近いこの南の島で別荘を持つアメリカ人の映画俳優と出会うところから物語は少しずつ変わっていく。

マイロン・キューナード。

アメリカ人にしては無口で、アルコール中毒の治療中。
「この島は裏返されたニューヨーク」と分析する鋭さもある反面、倣岸な印象もある。

名前も似ているし、読者は自然とマーロン・ブランドをイメージする。

マーロン・ブランドといえば、私にとっては「ゴッド・ファーザー」、「地獄の黙示録」である。
このフランシス・コッポラ監督の2大傑作の中でも、ものすごく存在感がある俳優だ。

「ゴッド・ファーザー」では、シチリア系マフィアのドン(首領) ヴィト・コルレオーネとして、父親の持つ威厳と愛情、首領としての深謀と非情を持つという複雑な男を魅力的に演じている。

私が「夏の朝の成層圏」でイメージするマイロンは、倣岸な肥満気味の丸坊主の中年男だが、部下や原住民からは神のように崇拝されている「地獄の黙示録」のカーツ大佐のイメージに近い。

実際に、マーロン・ブランドは1967年にタヒチ諸島の環礁テティアロアを所有していたらしい。
また、アマチュア無線家でもあったという。
(小説の中でも、無線機を使うマイロンが描かれています)

そんな妙にゴシップ的な部分も、「夏の朝の成層圏」の面白いところだと思う。
(池澤夏樹の作品では他、思い当たらない)

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