2015年7月22日水曜日

或る少年の怯れ/谷崎 潤一郎

「少年」、「小さな王国」、「二人の稚児」そしてこの「或る少年の怯れ」を読むと、谷崎は、いわゆる少年ものを書くのが上手い作家だったのかもしれない。

両親を早くに亡くし、歳が離れた兄 幹蔵に育てられる芳雄は病弱だったが、兄と結婚した義姉に可愛がられる。

しかし、 義姉が流産をした後、芳雄は、偶然、医師である兄が、義姉と共通の友人である女性と浮気をしている現場に立ち会ってしまう。

そこから、 兄と芳雄の間に溝ができるのだが、義姉が二度目の流産の後、病弱になり、兄が打った注射で容体が急変し、突然死んでしまう。

芳雄は、兄の表情にあやしい影を感じ、兄も弟から疑われていることを感じる。
そのうち、芳雄は、義姉の霊を感じるようになり、真夜中、義姉の部屋に行き、三味線を鳴らしたり、兄がかつて浮気していた女性と再婚する際、義姉を思い出して悲しんだりして、ますます、兄との溝が広がってゆくのだが、だんだんと病が重くなる芳雄に注射を打とうとした兄に、「僕は死ぬのはいやですから」と言い放ったことで決定的になる。


おそらくは真実を見抜いていたであろう芳雄は、最後、罪を犯した兄を許し、穏やかに臨終を迎えたと思われる場面で物語は終わる。

歳の離れた兄弟という微妙な関係に少しずつ異和が生じ、病弱な弟の秘めた憎しみに怯え、追い詰められてゆく兄を描いているこの作品も、「小さな王国」同様、子供の恐ろしさを描いている作品と言っていいだろう。

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