2015年7月6日月曜日

人生の親戚 大江健三郎 /日本文学全集 22

正直、これほど、面白い作品とは思わなかった。

この物語で語られている「まり恵さん」の人生に圧倒された。

何より、大江健三郎の小説で、これだけ魅力的な中年女性を描いているということにショックを受けたのかもしれない。(はじめ、お婆さんの話だと思いこんでいた)

この小説は、主人公が知り合ったまり恵さんの半生をその死まで描いているのだが、彼女には、様々な苦難や過酷な試練が襲いかかる(それは本当に死ぬ間際まで続く)。

しかし、精神的にも肉体的にも打ちのめされながら、彼女はあっけらかんとした明るさと気丈さを失わない。

そして、まり恵さんが性的にも魅力的に描かれていて、セックスのエピソードが始終絶えないというところ(そこにはもっと深い意味があるのかもしれない)にも意外な印象を覚える。

「説教 性欲の処理」で述べられている女性の性欲についての、あまりにあっけらかんとした、まり恵さんの言葉が、かえってすがすがしい。

それと、もっと驚くのは、この小説が書かれたのが1989年ということだ。

この物語では、まり恵さんが様々に関わり合う他人との緩やかなつながり(コミュニティ)が描かれており、この小説のタイトルにもなっている「人生の親戚」は、それを暗示させるものになっている。

まり恵さんの生き方は、家族という枠組みを超えて、人々がこれからどう暮らしていけばよいのかということについて、ひとつのモデルケースを提示しているようにも読める。

そういう意味で、今読んでも、全く違和感がない。
(唯一あるとすれば、「まり恵さん」の強さだろうか。こんな強い女性が果たして現代にいるのだろうか。)

池澤夏樹が2000年を過ぎて書きはじめたテーマを、バブルがはじける前にすでに書いていたことを思うと、大江健三郎の視野は相当に遠いところを見定めているのかもしれない。

http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309728926/

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