2018年10月22日月曜日

ヘル HELL/筒井康隆

人間、生きていれば、誰しも後ろめたい過去は心当たりがあるはずだ。
自覚しているものもあれば、無意識のものもある。

ふとした時に自分の人生の善悪の収支を数えてみて、天国行きだと思う人がどれだけいるのだろうか?

おそらく地獄は、多くの人にとって身近な存在に違いない。

この本で描かれているヘル(地獄)は、リアリティがある。
信照、勇三、武の幼馴染の三人を中心に、三人に絡んだ人々も含めて物語は展開していく。

武は、信照と勇三との遊びの中の悪ふざけで足が跋扈になるが、部下の泉の妻とは不倫の仲だ。

信照も東京にある文化的に価値のある建物の保存運動を都庁に勤める義弟の頼みで潰した過去の罪悪感にさいなまれている。

勇三はヤクザになってしまったが、その原因はひもじい暮らしをしていた勇三を見かねた紳士 二人が勇三を地獄に連れていき、御馳走を食べさせようとするが、行儀の悪さに気を悪くし、折檻してしまったことが原因らしい。

ある人に対しては自分は被害者だと思っていても、ある人に対しては加害者になってしまう相対的な関係。

地獄では、自分に過去に(悪い方面で)関係した人が立ち現れるが、何をしたかは目を凝らせが自動的に浮かんでくる。
自分の上司が自分の妻とSEXをしている情景も浮かんでくるし、その当事者の意識になることすらできる。

ただ、それで嫉妬心や憎しみを持つ訳でもない。自分の思念に浮かんだ過去の情景にある人々の姿や思いをみるだけだ。

この一見地獄らしくない地獄めぐりは、我々が日々、色々な出来事に反応して頭の中に思い描いている妄想の世界に近いものがあるのかもしれない。


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