2018年10月9日火曜日

小説「私小説」/筒井康隆

この作品は、とても、よくできたパロディだと思う。

主人公の能勢灸太郎は、赤河馬派(アカカバハ)の巨匠で、私小説の大家である。
文芸時評で若い作家の作品に嘘があると評したことがきっかけで、若手の作家たちから、灸太郎の書く私小説がネタ切れで全く面白みがないものだと逆に批評されてしまう。

(補足:私小説とは、作家の実体験を事実そのままに書く作風のことで、明治以降の日本文学の主流となりました。上記の赤河馬派はもちろん白樺派のもじりです)

そんな中、新しい小説の依頼を受けた灸太郎は、浮気を経験して、それを基に小説を書くことを思いつく。
しかも、住み込みの若い女中を手籠めにしてしまうという方法で。

ここからは読んでのお楽しみだが、「私小説」とはいえ、必ずしも事実そのものを描くものではいということが、灸太郎の真面目くさった文章と、実際に起こった事実との対比で描写される“手籠め”のシーンで明らかになる。

しかし、極めつけは、灸太郎に全く逆らわない無口な妻の最後の一撃だろう。

「私小説」を批判する批評(吉田健一、丸谷才一など)はよく目にするが、「私小説」そのものを小説の中で取り上げ、その作家まで含めて、からかい倒すという作品は珍しいと思う。

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