2018年10月16日火曜日

熊野川

自分にとって和歌山県というのは、全く空白の土地だった。
大阪、奈良、三重の下にあるこの県を訪れてみたくなったのは、やはり、中上健次の熊野集を読んだせいだと思う。

世界遺産の熊野神社の一つである熊野本宮大社は、紀伊半島下部の真ん中に位置していて、大阪から阪和自動車道で南紀田辺で降りても、三重から紀勢自動車道で尾鷲北で降りても、ましてや奈良から下っても、ずっと普通道路の曲がりくねった山道で真ん中に向かって走らなければ辿り着けない。

このアクセスの悪さのせいだろうか、道中、観光地化されていない雰囲気をところどころに感じた。

一番、印象に残ったのが熊野川だ。
熊野本宮大社に向かって走る道路沿いに、くすんだ水色の熊野川がずっと視界に入ってくる。
不思議に思うくらい、人影が少ない。
釣り人はたまに現れるくらいで、バーベキューなどしている人は皆無。

そして、熊野本宮大社の旧社地 大斎原大鳥居に行くと、より川の存在が迫ってくる。
神社も無い巨大な鳥居だけが建っているこの抜け殻のような土地のすぐ真横には、熊野川が流れている。

堤防も柵もない地面と同じ高さで流れている川。
人が運んだとは思えない様々な形をした自然の石ころが転がっている川洲を歩いていくと、静かに音もなくくすんだ水色の川が流れている。
普通、川の横にはススキなどの植物が生い茂っているが、この川にはない。
まるで、神社の境内の玉石のように石ころに囲まれている。
そのせいか、この川自体にどこか神聖な雰囲気がある。

明治二十二年の大洪水前まで、熊野本宮大社の社地は、熊野川の中州にあったというが、それがこの神社の本来の形なのかもしれない。




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