2017年8月26日土曜日

桟橋 稲葉真弓 近現代作家集 III/日本文学全集28

夫とうまくいっていない女が、幼い男の子を連れて、友人が所有している別荘を訪れる。

解放された環境の中で、やることもなく、海と山に囲まれた入江の桟橋で子供が海の中の蟹をみつめている間、彼女は、小屋でアコヤ貝に真珠の核入れをしている男の作業の様子をみつめる。

キール文字Эのような形の入江、 開口器で押し広げられた貝の肉の奥に真珠の核を挿入する作業、貝や魚の腐臭、ねっとりと全身にまとわりつく潮風、串刺しにされた獣( イノシシ)のイメージ。

そして、女が夜ぼんやりとみつめる謎めいた絵画。


 アンドリュー・ワイエスの「春」


 ルネ・マグリットの「光の帝国」



女は、夜、作業小屋の光をみつけ、吸い寄せられるように小屋を訪れる。
そして、イノシシを追い込む銅鑼の音を聞きながら、「きっと、なにかが罠にかかったのだ」と思う。

彼女は、自分を真珠の核を挿入された貝のように、串刺しにされた獣のように感じる。

そうした密やかなセックスを喚起するようなイメージが満ちたエロチックな小説。

夜、男のいる小屋の光に吸い寄せられる場面は、アントニオ・タブッキの「島とクジラと女をめぐる断片」で、ウツボ釣りをする男が、ウツボを引き寄せるときの歌をうたって、女を引き寄せるシーンを思い出した。


*稲葉真弓さんは、すでに他界しているが、倉田悠子というもう一つの名前の作家でもあり、なんと「くりいむレモン」などのライトノベル小説も書いていたらしい。

1 件のコメント:

  1. このコメントはブログの管理者によって削除されました。

    返信削除