2012年8月16日木曜日

令嬢クリスティナ/エリアーデ

宗教学者エリアーデが書いた幻想小説のひとつ。

ルーマニアのドナウ川下流域の貴族の屋敷には、未亡人と二人の娘が住んでいた。

その三人を支配するかのように寝室に飾られた生々しく美しい絵姿の令嬢クリスティナ。

令嬢クリスティナは未亡人の姉で、1907年にルーマニアで起きた大農民一揆に巻き込まれ、二十歳前に死んだが、その死体は見つからなかった。

その貴族の屋敷を訪れた画家は、二人の娘のうち、姉と恋仲になりながら、徐々に、三人の女家族の奇妙な雰囲気に気づきはじめる。そんな折、画家は死んだはずの令嬢クリスティナと出会うとともに、屋敷に客人として泊まっていた考古学者から、彼女に関する残虐な噂話を聞く。

ルーマニアのドナウ川流域といえば、ブラム・ストーカーの有名な「吸血鬼ドラキュラ」のモデルにもなったブラド三世がいたトランシルヴァニアのあたりだ。

中世の匂いがまだ残る土地柄、農民の無知と暴力、女貴族の残虐性、夢と現実、オカルティックな現象と秘術そういった様々な要素が融合している作品だが、令嬢クリスティナと彼女が憑依した末の妹が画家を誘惑する官能的な場面などは、驚くほど率直に描かれていている。

エリアーデは、世界各国の宗教とその儀式(オカルト・性的な秘儀を含む)に関する膨大な資料(世界宗教史など)を残しているが、それらをまとめ上げていく中で、やがて頭の中で発酵してしまった妖しい想いを、こうした幻想小説を書くことでガス抜きしていたのではないだろうか。

彼は、この作品をきっかけに、次々と幻想的な小説を書いていくことになる。

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