2012年7月7日土曜日

国会事故調 報告書

7月5日、国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書が衆議院・参議院議長に提出された。

インターネットでも、その内容は公開されているが、報告書全文は641ページのボリュームがあるため、ダイジェスト版10ページを見たほうが、この報告書の要点と全体像がよく分かるかもしれない。

http://www.naiic.jp/blog/2012/07/05/reportdl/

以下、結論の要旨から、重要なポイントをいくつか抜粋してみる。

【認識の共有化】
当委員会は、「事故は継続しており、被災後の福島第一原子力発電所の建物と設備の脆弱性及び被害を受けた住民への対応は急務である」と認識する 。
また「この事故報告が提出されることで、事故が過去のものとされてしまうこと」に強い危惧を覚える。
「事故は継続しており」の認識については全く同感。

【事故の根源的原因】
事業者である東電も、規制当局である保安院も、
・耐震安全性基準の見直され、新指針に適合するためには耐震補強工事が必要であることを認識していたにもかかわらず、福島第一原発1~3号機については、全く工事を実施していなかったこと 
・津波が来た際に非常用交流電源喪失が起こり、炉心損傷に至る危険があることの認識が共有されていたにもかかわらず、東電が対応を先延ばししていることを保安院が黙認していたこと 
・IAEA〈国際原子力機関〉では、深層防護(原子力施設の安全対策を多段的に設ける考え方)について、 5 層まで考慮されているにもかかわらず、日本は 3 層までしか対応できていないことを認識しながら、黙認してきたこと。9.11における米国の深層防護に関する知見を活かそうとすることについても消極的だったこと 
 が述べられており、
今回の事故は、これまで何回も対策を打つ機会があったにもかかわらず、歴代の規制当局及び東電経営陣が、それぞれ意図的な先送り、不作為、あるいは自己の組織に都合の良い判断を行うことによって、安全対策が取られないまま 3.11 を迎えたことで発生したものであった。
と結論付けている。
また、上記のような原因を生んだ構造的な問題として、規制当局と東電との関係について 、
東電は、市場原理が働かない中で、情報の優位性を武器に電気事業連合会を通じて、規制当局に規制の先送りあるいは基準の軟化等に向け強く圧力をかけてきた。(その結果、)規制する立場と、される立場が『逆転関係』となっていたことで、原子力安全についての監視・監督機能の崩壊が起きた点に求められる
と認識し 、今回の事故は明らかに「人災」であったと言い切っている。

なお、今回の報告書では、事故の主因が津波に狭く限定されるものではなく、地震による損傷の 可能性も否定できないという、今までの報告書(東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会や、福島原発事故独立検証委員会)では触れられていなかった問題点も指摘している。

【緊急時対応の問題】
総理、官邸による発電所の現場への直接的な介入が、現場対応の重要な時間を無駄にするというだけでなく、指揮命令系統の混乱を拡大する結果となったことを厳しく非難している。
重要なのは時の総理の個人の能力、判断に依存するのではなく、国民の安全を守ることのできる危機管理の仕組みを構築することである。
という部分も強く同感。
【被害拡大の要因】
政府から自治体に対する連絡が遅れたばかりではなく、その深刻さも伝えられず、住民に対しても事故の進展あるいは避難に役立つ情報も伝えられなかった点について、規制当局の原子力防災対策への怠慢と、当時の官邸、規制当局の危機管理意識の低さが、今回の住民避難の混乱の根底にあり、危機管理体制は機能しなかったと結論付けている。
【住民の被害状況】
この事故の収束作業に従事した中で、100 ミリシーベルトを超える線量を被ばくした作業員は 167 人で、福島県内の 1800km2もの広大な土地が、年間5ミリシーベルト 以上の積算線量をもたらす土地となってしまったこと、被害を受けた広範囲かつ多くの住民は不必要な被ばくを経験し、また避難のための移動が原因と思われる死亡者も発生したこと、住民は事故から 1 年以上たっても先が見えない状態に置かれている状況にかかわらず、政府、規制当局における住民の健康と安全を守る意思の欠如と健康を守る対策の遅れ、被害 を受けた住民の生活基盤回復の対応の遅れ、さらには受け手の視点を考えない情報公表のを指摘している。
以上のような結論を述べたうえで、この委員会は、以下の7つの提言を述べている。

提言1  規制当局に対する国会の監視

国民の健康と安全を守るために、規制当局を監視する目的で、国会に原子力に係る問題に関する常設の委員会等を設置する。

提言2  政府の危機管理体制の見直し

緊急時の政府、自治体、及び事業者の役割と責任を明らかにすることを含め、政府の危機管理体制に関係 する制度についての抜本的な見直しを 行う。

提言3  被災住民に対する政府の対応(重要な部分なので全文抜粋)

1)長期にわたる健康被害、及び健康不安へ対応するため、国の負担による外部・内部被ばくの継続的検査と健康診断、及び医療提供の制度を設ける。情報については提供側の都合ではなく、住民の健康と安全を第一に、住民個々人が自ら判断できる材料となる情報開示を進める。

2)森林あるいは河川を含めて広範囲に存在する放射性物質は、場所によっては増加することもあり得るので、住民の生活基盤を長期的に維持する視点から、放射性物質の再拡散や沈殿、堆積等の継続的なモニタリング、及び汚染拡大防止対策を実施する。

3)政府は、除染場所の選別基準と作業スケジュールを示し、住民が帰宅あるいは移転、補償を自分で判断し選択できるように、必要な政策を実施する。

提言4  電気事業者の監視

電気事業者のガバナンスの健全性、安全基準、安全対策の遵守状態等を監視するために、立ち入り調査権を伴う監査体制を国会主導で構築する。

提言5  新しい規制組織の要件

国民の健康と安全を最優先とし、常に安全の向上に向けて自ら変革を続 けていく組織になるよう抜本的な転換を図る。新たな規制組織は以下の要件を満たすものとする 。

 1)高い独立性
 2)透明性
 3)専門能力と職務への責任感
 4)一元化
 5)自律性

提言6  原子力法規制の見直し

原子力法規制については、内外の事故の教訓、世界の安全基準の動向及び最新の技術的知見等が反映されたものにする点などを含め、抜本的に見直す必要がある。

提言7  独立調査委員会の活用

国会に、原子力事業者及び行政機関から独立した、民間中心の専門家からなる第三者機関を設置し、これ までの発想に拘泥せず、調査、検討を行う。

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読んだ感想としては、非常によくまとまっていると思った。原発再稼動を前提としている部分を除けば、納得が得られる内容ばかりだ。

大飯原発はすでに再稼動してしまったが、本来は、この報告書の内容を国会で検討・審議し、原発の再稼動の妥当性も含め、国や政府として見直すべき事項、対応事項と実施時期を決定するのが正常なプロセスだったと考える。

少なくとも、原発を再稼動させるのであれば、従来の問題だらけの組織・体制ではなく、新しい規制組織と危機管理体制のもと、実施するという判断が、どう考えてもまともな発想である。

経済より命という優先順位からいえば、消費税増税法案より、よほど重要性が高いと思うが。

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