2012年1月20日金曜日

蓼食う虫/谷崎潤一郎

昔、丸谷才一が、小学校の国語の教科書に載っている駄文に、ため息をついて、谷崎の「蓼食う虫」
に載っている小父さんから甥への手紙を、しみじみと思い浮かべる文章を読んだ記憶がある。

まさか、「蓼食う虫」にと思う人もいるかもしれない。

「蓼食う虫」は、性的不調和のせいで、夫婦了解の下に、妻が恋人を作り、夫は売春婦のところにいくような夫婦が、離婚までは踏み出せないでいる微妙な状況を精緻に描いた作品なのだから。

しかし、谷崎の文章は、この難しい二人の状況を、よどみなく表現していて、読者は読んでいて、微妙な緊張感がただよう夫婦の姿を、頭の中にくっきりとイメージを思い浮かべることができる。

意味がわからない叙情的、感覚的な文章は一切なく、すべてが即物的と感じるほど明確に表現されている。
(冒頭に上げた、小父さんから甥への手紙も、小気味よい達意の文章である)

また、この作品に描かれている状況は、一見、異質なものに思えるかもしれないが、夫婦関係の微妙な部分を、ある意味、正確に捉えているような気がする。

きっと、男の読者は、主人公の要の心情に共感し、女の読者は、要の妻 美佐子の行動に共感する部分が、いろいろあるのではないだろうか。

しかし、夫婦というのは、本当に不思議な関係ですね。

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