2021年6月5日土曜日

ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録/片山夏子

原発作業員のインタビューや記事というものを、主要メディアでは、ほとんど取り上げない。

取り上げる価値がないはずがない。彼らがやっているのは、被爆のリスクと戦い、廃炉という福島を原発のない土地に戻すための40年以上かかると言われている必要不可欠な作業のはずだ。

こういう本を読むと、日本という国は、国が国民に見せたくない都合の悪い情報が統制されていることがよく分かる。
そして、選挙になると、真っ先に福島県に駆け付け、「福島の復興を政府の最重要課題として取り組む」などと言ったり、「廃炉や汚染水処理が最重要課題」だと言う政治家が嘘つきだということがよく分かる。

原発作業員の勤務条件が悪すぎるのだ。
とりわけ、2011年12月26日に、当時の民主党 野田政権が出した「事故収束宣言」で、作業員の賃金や危険手当、諸経費がカットされていた事実は知らなかった。
(しかも、これ以降、本を読み進めても給与等の待遇は改善されるどころか、下がっていく)

最も衝撃だったのは、「5年で100mSV」という国が定めた被ばく線量の限度を超えると、作業員が働けなくなってしまうため、線量計を鉛カバーに入れて作業するよう指示していた下請け会社があったことだ。
さらに、「高線量要員」として、短期雇用の臨時作業員を雇い、放射線量の高い場所ばかりを作業させ、年間被ばく限度の20mSvぎりぎりまで使い倒すという非人道的なことまで行われていたということだ。

多くの作業員は、多重下請け構造の中で勤務しており、7次請けや8次請けまで連なっておる。

労働者にとっては、手取りの給与額が、中間業者によって手数料などの名目を差っ引かれて減額され、労働安全衛生上の管理責任があいまいになる。

防護服と全面マスクを被って酷暑の中、汗が水のようにマスクの中にたまるが、内部被ばくしてしまうため外せない。熱中症になって、会社に報告しても、東電の建前上、労務管理が出来ていないことを隠すため、報告はされず、労災扱いにならない。

「俺たちは使い捨てだから」と嘆く作業員。そういったやりきれない言葉がつらい。この本に掲載された作業員のほとんどの人たちは、福島をよくしたいという思いから、身を投じた人たちであることが分かるからだ。

一方で、作業員が地元の被災地の老人から聞いた、2014年のオリンピック招致の際の「オモテナシ」が「オモテムキ」と言い換えられたり、安倍首相の発言「アンダーコントロール」が「情報がコントロールされている」と言い換えたというエピソードも載っていて、人の精神の逞しさが描かれていて、ほっとする部分もある。

様々な作業員の話を、いわき市内の居酒屋の個室などで長時間、聞いて、それを一つのエピソードに書きあげるという地道な作業を繰り返した筆者に敬意を表したい。
それは機械的な作業ではない。人の話を聞き、それを文章にするということは、その人の思いも自分の中に取り込まなければならないからだ。

巻末に、筆者が2014年2月、一行も原稿が書けなくなったというエピソードが載っていた。

福島第一での過酷な作業、そこで働く作業員のこと、そして自分の思い…を書こうとしたが、まったく手が動かなかった。心も体も一杯いっぱいになっていた。

9年間の取材でぼろぼろになった大学ノート179冊が筆者の手元に残ったというが、その努力がずっしりと伝わってくる本だ。

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