2017年1月14日土曜日

言霊/山岸凉子

言霊とは、言葉に内在する霊力をいうらしい。

バレエを習っている高校生の五十嵐 澄(さやか)には、秘密がある。
それは、自分がコンクールで賞を勝ち取るためには、誰か他人が失敗してくれることが必要だと信じていること。
練習では実力が発揮できながら、本番で失敗してしまったことがある彼女は、悪いことだと思いながら、自分より前に演じる友人の失敗を願う。
そんな自分を彼女は、偽善者だと感じている。

そんな澄(さやか)に、転機が訪れる。
一つは、父親の会社の経営がよくないため、母親に受験勉強をして大学に入ってほしいと言われていること。
二つ目は、ドイツにバレエ留学する予定の同い年の男子 聖也(せいや)と通っているバレエ教室で出会うこと。

やがて、彼女は、知らず知らずのうちに、バレエの技にも優れ、精神的にも大人の聖也に感化されていく。

聖也がドイツに入った後も、ブログでのコメントという方法で、彼女は、いくつもの知見を得る。
最も大きかったのは、聖也が、彼女が本番で失敗した原因を科学的に説明してくれたということ(これは演劇をやっている人は知っておいた方がよいかもしれません)。

そして、澄(さやか)にとって、決定的だったのが、バレエの本番前に澄のライバル的な存在の梓(バレエ教室の先生の姪で優遇されている)が澄に投げかけたマイナスの言葉(呪い)を、聖也が打ち消すという出来事があったということ。

当然ながら、 澄は聖也に恋することになるが、バレエのコンクールで、梓が難易度の高い優勝の狙える「黒鳥」というバレエを選択したのに対し、澄は梓の横やり(それを受けたバレエ教室の先生の判断)で、「黒鳥」を選べず、「ドルネシア姫」という優勝が狙えないバレエしか選べないことになる。

絶望する澄に、聖也が「ドルネシア姫」でもヨーロッパの選手が見事に演じていたということを語り、十分優勝が狙えるというアドバイスを受ける。
そして、聖也は、もっとも大事なアドバイスを澄に与える。

ネガティブな言葉を決して口にしない! いや考えてもいけない!
何故なら大脳は考える言葉のすべてに影響を受けるから!

考える言葉はすべてポジティブに!
自分を信じて最善を尽くす!

素直な澄は、聖也の言葉を信じる。(素直な人は伸びると個人的にも思います)
やがて、彼女は自分が他人が失敗してくれることを願っていた(呪っていた)自分は、自分自身に呪いをかけていたことに気づく。

そして、最初は偽善的だと感じながらも、ライバルの梓の成功を願い、緊張する彼女にポジティブな声かけをするようになる。それが自分の成功につながると確信しながら。

結果は、本書を読んでのお楽しみだが、読んでいて、前向きな気分になれる本だ。
別の作品「二日月」 「ブルーロージズ」でも述べられていた言葉の呪い、そして、その呪いから解き放たれるための心に、作者自身が体験しているバレエという”場”で、焦点を当てている気がしました。

今さらながらに思うが、山岸凉子という作家は、とてつもなくポジティブな作品を作る人なのだ。

http://kc.kodansha.co.jp/title?code=1000006295

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