2015年3月16日月曜日

世界の終わり 福永武彦/日本文学全集 17

読んでいると、徐々にその世界に引き込まれていくような作品だ。

若い内科医の妻が、少しずつ精神を病んでいく様子を描いているのだが、物語の構成が面白い。

1.彼女
  狂気の中にいると思われる妻が美しい夕焼けを見て、世界の終わりのようだと感じる

2.彼
  妻と母が待つ家に向かう列車の中で、妻とのやり取り、異常な行動を思い出し、憂鬱になる夫

3.彼と彼女
  二人の出会いから結婚までの様子、少しずつ壊れてゆく妻の精神、そして自殺未遂
  夫が到着した駅で見る厳しい顔の母

4. 彼女(つづき)
  妻が見る狂気の世界

やはり、引き込まれるのは、1と4の妻の狂った意識を描いている部分である。

極端なほど、「私は…」からはじまる文章が、徐々に、「お前は…」とか、「あの女は…」とか、「もう一人の私は…」とか、「もう一人のお前は…」というように主語が分裂してゆくのだ。
そのくせ、その中心にいる私は、分裂した自己を、歪んだ世界を、奇妙なくらい透徹した精神で眺めている。
そして、妻は、無意識に、しかし執拗に、夫や夫の母がいる世界とのつながりを断ち、自分の世界を守ろうとする。

この作品を読むと、「福永武彦新生日記」に書かれていた、実際に彼が経験した妻 澄子の自殺を仄めかす言動のことが思い出されてしまう。

作品としては優れたものであることに間違いはないが、息子である池澤夏樹は、よく、この作品を選択したものだと思う。

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