2014年9月22日月曜日

理科系の作文技術/木下是雄

物理学者である著者が、理科系の研究者・技術者・学生のために、論文・レポート・説明書・ビジネスレターの書き方や、学会講演のコツなどを説明した文章読本。

本書では、理科系の文書の特徴は、読者に伝えるべき内容が、事実と意見にかぎられていて、心情的要素を含まないことにあると述べている。

そして、そのような性質をもった理科系の文書を書くときの心得として、

・主題について述べるとき事実と意見を十分に精選し、

・それらを、事実と意見とを峻別しながら、順序よく、明快・簡潔に記述する

ことと要約している。

これは、特に理科系の仕事をしていなくとも、ビジネス文書を書く人であれば、誰にでも役立つ心得と言っていい。

文章には、poetryを含んだ文学的な文章と、論理性と簡潔明快を必要とする実務的な文章の2種類があるが、一般の人が社会生活で読み書きを求められる文章はどちらかといえば、圧倒的に後者だ。

しかし、日本の国語教育が上記の必要性に対応しているかは、あやしい。

以前、丸谷才一氏が、日本の大学入試試験の国語の問題が、あまりにも文学趣味に偏向していることを批判していたが、本書においても、日本の学校における作文教育は文学に偏向している点を指摘している。
遠足についての作文は、「どこに行って何をし、何を見たか」がどれほど正確に、簡潔に書けているかによってではなく、書いたこどもの、またその仲間の心情の動きがどれだけ生き生きと描かれているかによって評価される。
この本の著者は、上記の作文教育の必要性を認めながらも、「正確に情報をつたえ、筋道を立てて意見を述べることを目的とする作文の教育――つまり仕事の文書の文章表現の基礎になる教育」 の必要性を述べている。

本書で述べられている数々の文章作成の技術の中で、わたしにとって参考になった点は、以下のとおりでした。

・重点先行主義

 書き出しの文章を読めばその文書に述べてある最も重要なポイントがわかるようにする

・はっきりと言い切る姿勢

 「であろう」「思われる」「ほぼ」「約」「ほど」「ぐらい」「たぶん」「ような」「らしい」といった類の言葉をできるだけ削る

・まぎれもない文を

 一義的にしか読めない文、意味が二通りにとれない、誤解されない文を書く

・受け身の文を避ける

 「と思われる」「と考えられる」といった受け身の文は、単に「と思う」「と考える」という能動態の文に変えたほうが、文章が短くなり読みやすくなるとともに、主体が「わたし」であることが明白になる

このほかにも、学会講演のコツ――プレゼンテーションの極意が書かれていて、三十年前の本ではあるが、今読んでも役に立つ内容が書かれていると思った。

意外と、自分は文章を書く技術に自信があると自負している文科系の人にこそ、最適な本かもしれない。

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