2013年7月8日月曜日

永遠の夫/ドストエフスキー

三十代後半の独身貴族である主人公のヴェリチャーニノフは、路上で帽子に喪章をつけた紳士と出会う。

見覚えがあるのだが誰なのか思い出せない。ただ、四回、五回と出会うたびに、漠然と嫌悪感が募っていく。

そして、ある日、その紳士が、ヴェリチャーニノフが9年前に不倫関係になった人妻の夫であることに気づく。

タイトルの「永遠の夫」とは、「ただただ夫であることに終始」するしかない、淫乱な人妻の夫のことで、主人公の前に現れたその紳士トルソーツキーのことだ。

タイトルから言えば、その寝取られ夫のトルソーツキーが主人公になるところだが、この物語では、妻の愛人であるヴェリチャーニノフの目をとおし、主人公と妻の秘密の不倫を知っているのかいないのか不明のまま奇妙な言動をとるトルソーツキーの姿を客観的に描く。

寝取られ物語というと、モラヴィアが頭に真っ先に浮かぶ。

しかし、モラヴィアの物語が、寝取られ夫の立場から描いているせいもあるかもしれないが、どことなくマゾフィティックで重たい印象があるのに対し、ドストエフスキーのこの物語は、実にコミカルで、深刻ぶった空気がない。

そして、ここが重要だと思うが、この作品には下卑な笑いというよりは上品なユーモアの雰囲気が漂っている。

例えば、フェリーニやブニュエルが映画化していても全くおかしくないような物語だと思うが、残念ながら、原作の雰囲気がある映画化はされていないようだ。

ドストエフスキーというと、長編、重苦しいテーマという印象が強いが、この小説は非常に読みやすかった。

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