2017年11月13日月曜日

花散里・須磨/源氏物語 上 角田光代 訳/日本文学全集 4

この花散里は、非常に短い編であるが、亡き桐壺院の妃の一人であった麗景殿女御の妹で、光君とかつて逢瀬を交わしたという三の君が突然物語に登場する。

桐壺院亡き後、光君が庇護する二人の姉妹は、光君も含め、めったに訪れる人もない荒れた屋敷に静かに住んでいるが、光君に対して恨みの言葉を口にすることなく、やさしい人柄で接する。

それは、光君が、いまだに生活を支えるパトロンだということも大きな理由だろうが、一度結ばれた男女の関係においては、たとえ、長く待たされたとしても自分から仲違いを仕掛けないという、この当時の男女のつきあいの鉄則が述べられているような気がする。

須磨は、弘徽殿大后が権勢をふるう情勢になり、いたたまれない思いをするようになった光君が京を離れ、かつて都落ちした在原行平も住んだことのある須磨に移るという話だ。

死んだ妻の葵が住んでいた左大臣宅にいる若君(夕霧)にも、麗景殿女御にも、三の君にも、出家した藤壺の宮にも会って別れを告げ、弘徽殿大后の怒りの原因を買った尚侍(朧月夜)と藤壺の宮との子 東宮、六条御息所には手紙を送り、紫の女君と最後に別れを惜しみ、わずかな供とともに須磨に旅立つ。

須磨の光君を慕って、都から訪れる人もいるが、皆、都で噂になることを怖れ、早々に立ち去ってしまうことから、余計に光君はさみしくなる。
おまけに、海辺でお祓いをしようとしたら、海の中の龍王に目を付けられ、呼び寄せられるような悪夢を見てしまう。

単なる王宮での色恋沙汰だけで話が終わらず、主人公 光源氏の不遇の時を描いているところは、源氏物語がまぎれもなく小説であることを証明していると思う。



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