2016年2月7日日曜日

詩のなぐさめ/池澤夏樹

池澤夏樹は、冒頭、小説と詩を、こんなふうに比較する。
よくできた小説はあなたをまず別の世界へ連れてゆき、そこでちょっとした冒険をさせて、やがて日常に戻してくれる。
それに対して、詩は今いるところであなたの心に作用する。知性に働きかけ、感情によりそい、あなたは独りではないとそっと伝えてくれる。だから詩を読むことを習慣にするのは生きてゆく上で有利なことである。
個人的には、小説でも心に寄り添ってくれる一節はあると思うし、この本の詩のいくつかには、一瞬で別の世界へ連れていってくれるパワーのある素晴らしい作品があった。

それでも、詩は、辛いとき、苦しいときに助けてくれるのは事実だと思う。
短いことばだから、即効性のある風邪薬のようによく効くのだ。

東日本大震災のときに、古今和歌集の和歌とポーランドの詩人の詩が池澤夏樹に救いをあたえたように。

この本では、古今東西、さまざまな種類の詩が収められている。
漢詩、和歌、俳句、贈答詩、諷刺詩、抒情詩、恋愛詩、ソネット、民謡、現代詩、小説の中に登場する訳詞…。

通り過ぎてしまうだけのものもあったが、それは仕様がないものと割り切った方がいいかもしれない。詩は読むときの心持ちによって、印象がかなり変わるからだ。

個人的には、 照井 翠の俳句と、吉田健一のソネット、ブレイクの詩、中村真一郎が訳した菅原道真の詩、マヤコフスキーの元気な詩が心に残った。

吉田健一の訳詩についての池澤夏樹の解説がよい。
どう言えばいいのだろう?英語感が残るわけではなく、日本語に媚びてすり寄るわけでもなく、両者の間のちょうどよい距離の地点にいるように見えて、実はそこから少しだけ横に入った典雅な領域に吉田訳は立っている。意味の上では息の長い詩句が英語ではリズムで刻まれているのだが、それがわずかに破格の日本語にうまい具合に移されている。
 “破格の日本語”というのが、いかにも吉田健一らしさを表わしている。

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