2016年2月14日日曜日

伊勢物語 川上弘美 訳/日本文学全集3

百二十五段からなる歌物語。

物語中の“男”は、在原業平と言われている。

文章としては、どれも短いのだが、物語に伸縮性があると感じるのは、やはり和歌の存在だろう。

本書では、導入部分と終わりの文章は現代語訳されているが、和歌については原文をあえて載せ、その横に訳が配置されている。

そのやり方は正しいと思う。
男と女のやりとりをめぐる想いを託す表現方法としては、これほど高度なものはないかもしれない。
恋愛にありがちな幼稚で露骨な表現を避け、美しい詩に想いの奥深さを籠める。

そこで歌われている様々なかたちの恋愛のどれかは、今読んでも、身につまされるものがある。

読者は、川上弘美の大胆な訳も楽しむこともできる。例えば、 三十段。

(原文)

むかし、男、はつかなりける女のもとに、

逢ふことは玉の緒ばかり思ほえてつらき心の長く見ゆらむ

(川上弘美 訳)

男がいた。
思いをよせた女は、わずかの時にしか逢ってくれなかった。
その女に、詠んだ。

逢うのは
一瞬
恨みは
永遠

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