2015年6月17日水曜日

治療塔 大江健三郎 /日本文学全集 22

大江健三郎さんの小説は、今まで縁がなく、今回はじめて読んだのだが、このSF小説。

しかし、池澤夏樹がこの作品を選んだ理由もなんとなくわかる。
ここには、あまりにも現代に近い未来が描かれているからだ。

核戦争、原発事故による放射能、そして環境破壊で汚染され、資源も乏しくなった地球。人類には、エイズと新しい癌が蔓延し、その危機感から、ついに、人類の一部「選ばれた者」が、巨大な宇宙船団を組み、地球を離脱し、「新しい地球」を目指し、宇宙に旅立つ。

一方、地球に残された「落ちこぼれ」に属する人々は、文明のレベルを1960年代に落とし、「高度なものは、より高度ではない方へ」、「難しいものは、易しい方へ」、「複雑なものは、単純な方へ」といった方向に文明の舵を切っている。

ところが、「選ばれた者」が、「新しい地球」から、突然、地球に戻ってくる。
そして、「落ちこぼれ」に属する主人公のリツコは、「選ばれた者」に属するいとこの朔と会うことになるが、朔が出発する前にl比べ、はるかに若返っていることに気づく。


物語は、なぜ、「選ばれた者」が地球に戻ってきたのか、なぜ、朔(「選ばれた者」)は若返ったのかという謎を徐々に明らかにしてゆくとともに、リツコと朔が恋仲になることで、「選ばれた者」が社会を支配し、「落ちこぼれ」との格差を作ろうとしていることが明らかになってゆく。

そして、タイトルの「治療塔」の謎も明らかになる。(「2001年宇宙の旅」と似てるといったら、ネタバレだろうか)

女性主人公に物語を語らせている設定だが、文章も自然だし、読みやすいと思った。

セックスの描写もあるが、いやらしさがなく、 そういう意味で、池澤夏樹の小説と似たタッチを感じた。特に、リツコと朔が北軽井沢の農場で集団生活を行うあたりの雰囲気は、池澤夏樹の小説にも出てきそうな内容だと思う。

(些末な部分だが、「テレビ」を「テレヴィ」と変に語尾を伸ばしているは、近未来だからなのか、大江さんの感性なのか、若干気になった)

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