2014年8月24日日曜日

真夏の冷え冷え

暑いから、ひんやりとした感触をイメージしてみる

かき氷とか、冷たい飲み物ではなく

お化け屋敷とか、怪談とか、もっと精神的なもの

たとえば、一九一六年の冬、ミュンヘンで開かれた「新しい文学の夕べ」で行われた若い作家たちの自作朗読会をイメージしてみる

一人の作家は、こんな物語を語りはじめる

司令官から死刑執行の立ち合いに招かれた旅行家が見る奇妙な機械

その機械は、下部が「ベッド」、中間部が「馬鍬(まぐわ)」、上が「製図屋」と呼ばれている機能で構成されている

「ベッド」に縛り付けられた囚人を、「まぐわ」に取りつけた針が、「製図屋」の指示により刺し、刻んでいく

死刑執行を行う将校。彼は、前の上司である司令官が作ったこの機械を信奉している

将校は、今の司令官に、この機械による処刑方法を廃止される恐れがあることを察知し、自分の味方になってくれるよう、旅行家に頼む

しかし、説得に失敗し、将校は、処刑予定であった囚人を機械から外し、自分の身体を使って機械による処刑を行う

グロテスクな機械の動きと身体を刺し貫く長い針

作品名は「流刑地にて」

作者は、フランツ・カフカ

会場にいた作家の印象

「…黒い髪、蒼ざめた顔、その全身が当惑を隠しきれないでいる」

朗読中に聴衆の三人が失神し、会場から運び出された

カフカが生涯に行った唯一の自作朗読会

彼の作品は、よく未来を予見しているような内容だと評されるが、この作品も例外ではない

二十年あまりのちにナチス・ドイツが行ったことを思えば

迫害されたユダヤ人にとって、それはさらにグロテスクで巨大な「流刑地」に他ならなかった

引用 「流刑地にて」の翻訳者 池内紀氏の解説より

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