2011年12月30日金曜日

東電原発事故調査・検証委員会 中間報告書に思う

12月26日 東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 中間報告書が公表された。

この中では、今回の事故の対応をめぐる様々な問題点が指摘されている。以下、特に気になったところだけ取り上げてみた。

・福島県のオフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設)には、放射性物質を遮断する空気浄化フィルターが設置されておらず、事故の進展に伴う放射線量の上昇により、現地対策本部を現場から離れた福島県庁へ移転せざるを得ず、本来発揮すべきであった事故時の情報交換や対策の検討を行うための様々な設備が使用できなかった。
なお、 空気浄化フィルター の問題は2年前に総務省より勧告を受けていたが保安院は対応していなかった。

・1号機の全運転員が原子炉冷却を担う非常用復水器(IC)を作動させた経験がなく、非常用復水器が作動していると誤認し、炉心冷却が遅れた。

・緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)によって得られた今回の事故による放射性物質の拡散傾向の予測情報が、文部科学省、保安院 、原子力安全委員会、内閣官房の連携のまずさにより、活用されなかった。そのため、各市町村は有効な避難指示を出すことができず、避難経路・避難場所が、放射性物質の飛散した方向と重なるケースが多数発生した。
なお、文部科学省、保安院及び安全委員会によるSPEEDI 計算結果の公表がなされたのは、5月3日のこと。

・条約上の通報義務はないことから、汚染された水を、周辺諸国への事前説明をしないまま海洋放出し、周辺諸国に日本の対応に対する不信感を与えた。

・津波対策の基準を提示するのは保安院の役割だが、その努力がなされた形跡はなかった。

しかし、報告書で、今回の事故の原因の本質を突いていると思われたのは最後の「10 おわり」の部分だ。
今回の事故では、例えば非常に大きな津波が来るとか、長時間に及ぶ全交流電源の喪失ということは十分に確率が低いことと考えられ、想定外の事柄と扱われた。そのことを無責任と感じた国民は多いが、大事なことは、なぜ「想定外」ということが起こったかである。
原子力発電は本質的にエネルギー密度が高く、一たび失敗や事故が起こると、かつて人間が経験したことがないような大災害に発展し得る危険性がある。しかし、そのことを口にすることは難しく、関係者は、人間が制御できない可能性がある技術であることを、国民に明らかにせずに物事を考えようとした。
それが端的に表れているのが「原子力は安全である。」という言葉である。一旦原子力は安全であると言ったときから、原子力の危険な部分についてどのような危険があり、事態がどのように進行するか、またそれにどのような対処をすればよいか、などについて考えるのが難しくなる。
「想定外」ということが起こった背景に、このような事情があったことは否定できない。
今回の事故を通して、原子力が「人間が制御できない可能性がある技術であること」は、すでに明白な事実だろう。

また、人間が作った組織、国家というものは、都合の悪いところは隠蔽し、嘘をつき、国民も容易にだまされ(というより見たくない現実からは目を背け)、思考停止に陥るということも。

人間が制御できない可能性がある技術であるかぎり、今回の事故検証によって政府や東電が「想定外」に備えても、なお、「想定外」の事態は再び起こりうるのではないだろうか?

とすれば、報告書の結論は、原子力発電の廃止に向けた提言ということが妥当ではないかと思う。

今回の事故調査・検証により得られた教訓は、防災、災害時の対応 、危機管理、 社会一般の失敗事例等、様々な分野に有効活用してもらいたい。

しかし、報告書を反省材料として、原発を本格的に再稼動することには絶対に役立ててほしくないと思った。

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