2018年3月21日水曜日

蓬生/源氏物語 上 角田光代 訳/日本文学全集 4

蓬生の巻は、光君が、かつて気まぐれに情けをかけた常陸宮の姫 末摘花との再会を描いた物語だ。

末摘花は、荒れ果ててさみしい邸に住んでいて、気の利いた会話や歌詠みもできず、胴長で顔の下半分がやけに長く、鼻先が赤いという、パッとしない姫君だが、光君が須磨に流されても、辛抱強くその帰りを待ち続けていた。

光君の援助で一度回復した屋敷は、ふたたび荒れ果て、草木が生い茂り、狐や梟が住み着くようになる。そのうえ、下級役人に嫁いだ叔母からは、何のたくらみか、姫君を連れて地方に下向する誘いをかけられ、断ると、お付きの侍従を誘い、侍従も姫に同情しながらも叔母について行ってしまう。

一方、須磨から戻った光君も再会した紫の上にばかり気が向いて、末摘花について時折思い出しても訪ねようとはすぐに思わない。それでも、一層寂しくなった屋敷で、末摘花は待ち続ける。(この忍耐も、才能というものかもしれない)

結局、光君は末摘花の屋敷を再び訪れ、放っておいた彼女に対する罪悪感もしくは憐憫から、経済的援助を再開し、二年後には光君の本邸の傍の邸で暮らせるようになる。

この巻でも、軽い気持ちで関わった男女の宿縁がたやすく切ることができないものになってしまうことを感じさせるが、作者 紫式部の口の悪さも際立っているのも面白い。

例えば、末摘花を、「木こりが赤い木の実を顔につけたままでいるように見えるその横顔は、ふつうの人ならとても見るにたえないだろう」と言ったり、

末摘花を気にかける光君を、「何から何まで人並みにも及ばない人を一人前に扱うのは、いったいどんなつもりだったのでしょうね。」と言ったり、

終いには、「何しろ頭が痛いし、面倒で億劫だし、あまり気も進まない」と物語の続きを語るのを止めてしまっている。



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