2017年5月8日月曜日

みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子訊く 村上春樹語る

川上未映子よく訊いた!というのが正直な感想。

話があっちに行ったり、こっちに行ったりして、深く追求できている部分と突っ込みが足りないと感じる濃淡の差はあるが、全体としてみると、多少読んでる方も疲れるほどに、まあよくもこんなに訊いたなという印象を受ける。

それは村上の愛読者である川上未映子がとにかく自分の訊きたいことをストレートに訊きまくったということだろうし、村上春樹もほぼ逃げずに誠意をもって語ったことの証左だろう。

村上春樹が自身の仕事ぶりをまとめた「職業としての小説家」より、ある意味、面白かった。

色々なテーマが語られているが、私が特に興味深く読んだのは、以下の部分だった。

1. 中上健次の思い出

中上健次が文壇のイニシアチブを持っていた時代に、中上と村上が対談した後、中上が村上を飲みに誘って、村上が断ったという逸話。
村上本人も後悔しているが、これ、両者の愛読者としては是非行ってほしかったですね。

2.地下へ降りていくことの危うさ

地上2階建て地下2階の建物の絵(川上未映子作)が秀逸。
地下1階が近代的自我みたいなもの、日本の私小説的な世界(クヨクヨ室)で、 地下2階が無意識の世界という説明は、とてもイメージがしやすい。

3.女性が性的な役割を担わされ過ぎていないか

実は私も、村上春樹の小説で不必要なくらいにセックスシーンが多いなぁと気になっていたので、川上未映子はよく訊いた!と感じるところだったのだが、残念ながらこの部分の村上春樹の答えは、「えっそうなの。でも違うよ」という感じでちょっと逃げているというか、かわしている感じが強い。この部分は正直もっと突っ込んでほしかったが、川上未映子の質問内容も、かなりストレートに近いものなので、これが限界かなという気もする。

4.日記は残さず、数字は記録する

ワープロソフトに「EGWord」(旧Macユーザとしては懐かしい!)を使っているのも面白かったが、村上春樹のある意味緻密な仕事の仕方と仕事量に驚かされる。
長編小説の執筆において、毎日十枚原稿を書いて毎月二百枚のペースを堅持し、書き直し(推敲)は、第5稿までプリントアウトせず、画面上で修正するというのも恐ろしい。そして、プリントアウトした第6稿から念校まで入れると、全部で十校(!)まで書き直しをしているということになる。
しかも、その間に、翻訳を複数こなすというのだから、すご過ぎる。

以上、私が特に興味があるところだけ取り上げてみたが、色々な側面から質問しているので、村上春樹の愛読者であれば、どこかしら興味を感じるところは、きっとあると思う。


http://www.shinchosha.co.jp/book/353434/

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