2017年4月9日日曜日

岬/中上健次

実に複雑な家族関係だ。

主人公 秋幸は、実母と義父が暮らす家の離れに住み、歩いて十分とかからない距離に住む中姉 美恵の夫 実弘が親方をしている組の土方作業を仕事にしている。

同じく土方を仕事にしている義父にも、 秋幸より二つ年上の連れ子 文昭がいて、義父とその子、母と秋幸が同じ家に暮らしている。

中姉 美恵と母は同じだが、やはり、父(すでに他界)は異なっている。

秋幸の実父は、土方請負師でもないのに、乗馬ズボンをはき、サングラスをかけた、獅子鼻で、体だけやたら大きく見える男であり、山林地主から土地を巻き上げたと噂されるような男だ。
秋幸の母以外にも、二人の女に子供(秋幸にとっては異母弟妹)を産ませており、うち、一人は女郎の娘であり、新地(売春街)で働いている。

秋幸の仕事仲間には、美恵の夫 実弘の妹で浮気性の光子の夫 安雄がいたが、ある日、安雄が実弘の兄 古市を刺し殺す事件が起きる。(事件の原因は光子が安雄をそそのかして、兄妹仲が悪い古市を殺した風に描かれている)

その事件に衝撃を受けた姉 美恵が、精神的におかしくなってしまう。
亡き父の法事を機に戻った長姉 芳子もいる中、子供に戻ったように、母を求め、仕草も子供じみたものになる。

その半分だけ血のつながった姉二人と秋幸が、昔よく行った岬に弁当を持って墓参りに行く場面の情景が、この小説の中で一番美しい。

子どものようになった姉 美恵の狂気を岬の明るい光が優しく包み込んでいる。

しかし、美恵が突発的に自殺を図るようになり、ますます息苦しくなった空気から逃げるように秋幸が向かったのは、秋幸の実父が女郎に産ませた娘(秋幸の異母妹)が働く新地の店だった。

中上健次の小説には、もし、現実だとしたら、私にとって、とても受け入れることができない前近代的な要素がいっぱい詰まっている。その大半は日本から消え去ってしまったものだし、これからも消えていくべきものだと思う。

なのに、何故これほど強く惹かれてしまうのだろうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿