2014年1月27日月曜日

完本 危機管理のノウハウ/佐々淳行

警視庁、防衛庁の主要ポストを経験し、内閣安全保障室の初代室長を務めた著者の、危機管理におけるリーダーの条件が述べられている。
風貌にも、その雰囲気がよく出ている。


590ページにも及ぶ力作だが、重要部分は特にPART1の「信頼されるリーダーの条件」(180ページほど)に凝縮されており、この部分だけ読めば、おおよそ、危機管理に必要なノウハウを得られる。

驚くのは、古今東西の戦史、政治家の言動、著者の見聞を幅広く例示し、具体的に危機管理の有効策を説明しているところで、その博識と具体性は、単なる危機管理のマニュアル本の範囲を優に超えている。

(「兼高かおる世界の旅」(子供のころ、テレビで放映していたと思う)の兼高かおるは、世界中を旅した人だが、彼女は自己流のサバイバルキットとして、ビニールの風呂敷を持ち歩いていたそうだ。これは、会場や砂漠に不時着したとき、雨水を貯め、あるいは裁くの砂から立ちのぼる水蒸気を集めて飲料水とするための用意だという)

私が面白いと思ったところは、昭和53年に、広岡監督が率いたヤクルトが、長島監督率いる巨人を破り、日本一になった際の、二人の監督の采配を比較し、特に長島監督の采配を反面教師として、危機管理を論じているところだ。

著者いわく、長島監督の采配は、日本的用兵思想が濃く現れているものだという。
(一方、広岡監督は欧米的)

たとえば、長島監督は、全ての試合に勝とうとこだわり、戦術にこだわりすぎて、戦略目標である優勝を逃してしまった。一方、広岡監督は、つねに冷徹に戦略目標を見つめ続け、平気で「負けゲーム」「捨てゲーム」をつくり、メリハリをつけ、名を捨て実をとった。

また、長島がV9時代の主力選手をシーズンを通して使い続け、スタミナ切れさせたのに対して、広岡は新人を代打に起用したり、守備位置をコンバートさせるなどして積極的に交代要員を養成し、予備隊をつくり、交代制の観念を持って戦っていた。

その他、兵力の逐次投入(投手の小出し起用、頻繁すぎる投手交代など)、兵站・休養・補給の重要性(広岡は遠征先では酒と麻雀を禁止した)、第一線への無用の口出し(長島はピンチになるとコーチとともにすぐにベンチから飛び出てくる)など。

第一線への無用の口出しは、東日本大震災時の菅首相の言動でも、その有害性は証明されていますね。

また、広岡監督については、海老沢泰久の小説「監督」を読んで、その戦術と理念は理解していたつもりだったが、危機管理という観点からも非常に理に適っていたということが今回あらためて良くわかった。

それと、外国人の特徴を様々な逸話から分析している点も非常に参考になる。

特に交渉時の欧米・中国人の発想として、フォロー・スルー(いったんやりはじめたことを中途半端に止めずに徹底的に思い切りやりぬくという原則)、No,Butの原則(まず、Noと言って相手の突進を拒否し、そのあと、however や providedで妥協の可能性を検討すること。これに対して日本はyes,butだという。つまり、いきなり認めてしまうところから始まる)など。
交渉時における中国人の本質が欧米のそれと近いというのも意外な点である。

1991年発行の本だが、リーダー論、危機管理、交渉、グローバルという観点から非常に役立つ内容になっていると思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿