2013年10月7日月曜日

風立ちぬ/宮崎 駿

今更だったが、時間が空いたので見に行った宮崎 駿監督の「風立ちぬ」。

ある意味、予想どおりだったが、素晴らしい作品だった。
たぶん、氏の映画の中で、一番好きな作品になったかもしれない。

まず、作品の中の色々な要素(飛行機、恋、幻想(カプローニ伯爵)、時代背景(戦争))のバランスがいい。
どれか一つの要素でも、欠けたり、過ぎたり不足したら、作品の魅力が半減してしまいそうな気がする。
この絶妙なバランスによって、2時間という時間が急がず、それでも濃密に流れていくのを感じる。

それと戦争という時代の描き方。
関東大震災から始まり、金融恐慌、戦争へと、日本が少しずつ暗く、変に、愚かになっていく時代を、時折映る町並みや人々の様子を丁寧に描きながらも詳しく説明せず、さらっと背景に配置しておくだけのやり方は、今回の作品では適切だったと思う。

司馬遼太郎でさえ、匙を投げた昭和初期の時代を、今の時代に通じるように、共感できるように描くことができたのは、やはり、宮崎アニメの力だと思う。

また、今回、零戦という、飛行機ではあるけれども、まさに戦闘兵器が、主人公堀越二郎の夢の対象なのだが、カプローニ伯爵という飛行機の神様的な存在で、その脅威が中和されているところも上手い。

ラストで、堀越二郎が零戦の残骸を見つつ、カプローニ伯爵に、「君の(創造的)10年はどうだった?」と聞かれ、「一機も戻ってきませんでした」とつぶやき、多くの零戦が青い空に消えていく幻想は、零戦の試験飛行で「良い飛行機をありがとう」と堀越に礼を述べた爽やかなパイロットの一言とともに、この作品に必要な苦さも与えている。

そして、結核の菜穂子との恋の描き方。ある意味、定番と言ってしまってもいいくらい、恋の王道を描いている。非常にせつない恋だが、零戦の試験飛行が成功したとき、堀越が山の彼方を見つめ、ふと菜穂子との別れを感じているような余計な説明のない印象的なシーンの描き方も秀逸だった。
それと宮崎駿には珍しく、何回かのキスシーン、初夜を描いているのも興味深かった。

最後に、タイトル「風立ちぬ」。風が立った、という意味であるが、作品中も菜穂子との再会の場面で風が印象的に描かれている。
ありそうで、ありそうもない風をこんな風に美しく撮った監督は、タルコフスキーと宮崎駿だけかもしれない。

風は、デビュー作の「風の谷のナウシカ」にもつながる要素だが、作品のサブタイトルにもなっている「いざ生きめやも」という言葉も、つながっている。

人は今生きている時代が、どんなに残酷で辛いものでも、その中で一生懸命、生きるしかない、
という宮崎駿の思いは一貫しているように感じる。

宮崎監督の最後にふさわしい素晴らしい作品だと思う。

2013年9月9日月曜日

安倍首相の汚染水問題をめぐる発言

昨日のNHKだったろうか、2020年のオリンピックの開催地が東京に決まったとのニュースで、東京招致に反対だった漫画家のやくみつる氏の発言が紹介されていて、思わず笑ってしまった。

安倍首相が「東京電力福島第1原発について私は皆さんに約束する。状況はコントロールされている。」と力強く語ったことについて、

いまだかつて、首相が、汚染水対策について、国民に対して、こんな力強い説明をしたことがあっただろうか? と。

確かに、そう思う。
こんな力強い説明は今までなかった。

そして、IOC委員との質疑応答では、

(汚染水問題は)結論から言って全く問題ない。事実を見てほしい。汚染水による影響は福島第1原発の港湾内の0.3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている。

とまで説明したのだ。

本当?と耳を疑う内容だったが、結果からすると、IOC委員は、たぶん、この説明を信用した。
安倍首相のスピーチが決め手だったと賞賛するマスコミまでいるという。

願わくは、有言実行で対応してほしいと思っていたが、すでに不穏なニュースが流れている。

<東電>汚染水、首相「完全にブロック」発言を事実上否定

すでに汚染水対策は、国際的な公約になったと言ってもおかしくない。
言ったからには、約束は必ず守ってほしい。

オリンピック招致のために、国際社会を騙したと言われないように。

2013年9月8日日曜日

Film No Damage/佐野元春 を観て

2020年のオリンピック開催地が東京に決まるかもしれないと騒いでいた前夜の映画館で観た。

小さめの上映室でもまばらな人。私を入れて十四、五名というところだろうか。
年齢層はやはり自分の年齢に近い人がほとんど。そして私同様、一人で観に来ていた人が多かった。

冒頭、「モリスンは朝、空港で」が流れてきて、ホテルで寝起きの髪の毛がちょいリーゼント気味の佐野元春が映る。若い。
そして、何年ぶりにこの曲を聴いただろうか。

1983年の中野サンプラザのライブ映像らしいが、とにかく元春の声が若い。
CDと同じキーでライブで歌っている元春は私はリアルタイムで見たことがなかったので、とても新鮮だった。

「悲しきレイディオ」、「スターダストキッズ」、「彼女はデリケート」、「終わりは始まり」、「ハートビート」、「ガラスのジェネレーション」…

曲を聴きながら、空気が1980年代に戻ったような気がした。
そう、このころは、音楽はレコードプレーヤーで聴き、テープにダビングしていたのだ。

コンサートの様子は、とにかく元春が動きまくる。
自分でも演劇的と言っているようだが、少しやりすぎなぐらい体を動かしている(ダンスという感じだけでもない)
あれだけ動けば、相当汗をかくと思うが、スーツとネクタイ姿を最後まで崩さないところが、元春らしい。

HeartLandのメンバーも若い。キーボードの西本 明、ドラムの古田たかし、そして、元春に、いつもメンバー紹介で、「そして最後に」と振られるサックスのダディ柴田。
この段階で、すでにこのHeartLandと元春の演奏は完成のレベルに達している。

終わり方は、ちょっと物足りなく感じる人は多いかもしれない。

しかし、このフィルムが撮られたのは、ミュージックビデオもなかった頃で、アルバムは「Some Day」、「No Damage」を出したところまでの元春なのだ。
そして、当時は映像の製作スタンスも、もっと淡白だったのかもしれない。

一番、面白かったのは、佐野元春がベッドインのジョン・レノンに扮し、 インタビューに答えるところ。

インタビュアーに、「何故、外国(ニューヨーク)に行くのか?」と聞かれ、元春は、

「多くの人々にもてはやされ、僕は自分が何でも出来るようなすごい人間なのではと思うようになった。しかし、それは勘違いだとすぐに気づいた。だから、本来の自分を取り戻すために行くんだよ」という趣旨の答えをしている。(無言なのだが回答の字幕が流れている)

これは意外と本音なのではと思っていたら、本人もそうコメントしているようだ。

私が元春を好きになったのは、この渡米で作られた「Visitors」からだった。
No Damageの世界には、今ひとつ自分はなじめなかった。
(今はそうでもないが、当時はちょっと年代的に上の人が聴く音楽かなと感じていた)

そういう意味で、Making of 「Visitors」だったら、もっと感動しただろうなとは思う。