2022年1月30日日曜日

溶ける街 透ける路/多和田葉子

多和田葉子の小説は、国境を越える言葉や人々の物語が多いが、この本を読んで、それは彼女の作家としての仕事でも全く同じであったことに、ある種の感銘を覚えた。

この本で、彼女は主に欧米諸国の四十八の町を旅しているが、ほとんどが作家をめぐる現地のイベントやフェスティバル、インタビューや朗読会を機会に訪れた街が描かれている。

彼女は、新型コロナウイルスによるパンデミックが始まる2020年の春まで、自分の作品と一緒にともに、旅芸人のように声がかかった町から町へと旅していたのだ。

人との交流を敬遠する文筆家も多いと思うが、好奇心だろうか、彼女は行く先々の町や人々にオープンに泰然と接しているように思える。

海外への個人としてのプライベートな旅ではなく、作家としてのパブリックな旅をこんなに重ねている日本の作家は、かつていなかったのではないだろうか。

文章は非常に読みやすく、無駄がない。

誇張や自慢はなく、多和田葉子という信頼できる作家が見て感じた一場面を切り取った短文だが、その街の印象が鮮やかに記憶に残る。

このパンデミックの中、この本を読んで、私は新鮮な外の空気をすうっと吸い込んだような気分になった。

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