2013年6月16日日曜日

若き日に薔薇を摘め/瀬戸内寂聴 藤原新也

本書には、雑誌「the寂聴」に掲載されていた瀬戸内寂聴と藤原新也の間で2008年10月28日から2010年8月13日までの間に交わされた29通の往復書簡が収められている。

何故、今頃、あの震災を挟んで、公表されたのだろうという思いが若干過ぎったが、震災後の今、読んでも十分に心に響く内容になっていると思う。

読んでいておかしかったのは、それぞれの書簡を読むと、自然と二人の姿、表情が思い浮かんでしまうことだった。

瀬戸内寂聴の書簡はいかにも瀬戸内寂聴であり、藤原新也の書簡はいかにも藤原新也らしい世界観に満ちている。

そんな個性あふれる二人の間でこれだけ息のあった書簡が29通も続いたことに、まず素直に感心してしまう。

特に、瀬戸内寂聴の書簡は、未だ抜け切れない業のような思いとそこから湧き出てくる力が感じられて、歳を感じさせない。
藤原新也との年も親子ほど離れているが、完全に対等なやり取りとなっており、寂聴が自分の住処に藤原新也を招待するのに、彼から送られた書をどんな額縁に入れて何処に飾ろうかなどと頭を悩ませている姿は、いかにも女性っぽい。

それと、ちょっと驚いたのは、以前、藤原新也の「書行無常」展で見た「死ぬな、生きろ」の書を、すでに2010年の当時、寂聴の鳴門の家で書いていたことだった。

あれは、震災を受けて書いたものかと思っていたのだが、実は、米寿を迎える瀬戸内寂聴に対するメッセージでもあったのだ。

この強烈な言葉を、自分を自宅に招いてくれた年上の女性に送ってしまうところが、いかにも藤原新也らしいとも思うが、二人の関係がある意味、通り一遍のところを超えてしまっている証拠なのかもしれない。

このような一風変わった友情としか言いようがない濃い人間関係があったからこそ、これだけ読ませる書簡集になったのかもしれませんね。


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