2020年8月11日火曜日

中国共産党および香港政府による国家安全維持法に基づいた香港民主活動家に対する弾圧

香港国家安全維持法が異常な手続きとスピードで成立・施行されたのが6月30日。

そこから3か月も経たない間に、香港民主活動家である蘋果日報(アップル・デイリー)創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏と民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏を中心とする男女10人が、8月10日、香港警察に逮捕された。

黎智英氏と周庭氏に対する容疑は、香港への制裁を外国に働きかけたとして、香港国家安全維持法で禁止する「外国勢力との結託」に違反する容疑で逮捕されたものらしい。

いよいよ、中国共産党は、香港民主活動家に対する弾圧を本格的に進めることを決断したと思われるが、日本は同じ民主主義の価値観を共有する人々への弾圧に明確に強く抗議すべきだ。

あのCOVID-19対策で失点続きのトランプ政権でさえ、中国・香港の関係する政府高官等に対して、制裁などの手段を使って、中国共産党に香港政策の再考を迫る一連の取り組みを進めている。
イギリスも、7月22日、約300万人の香港市民がイギリス市民権を獲得できるようになる特別ビザの条件を公表している。

今回の件に関して、中国共産党・香港政府に対する明確な非難の意思表示を行わないことは、日本国自身が民主主義を尊重しない国家であることを黙示的にも表明したのに等しい。

もう、天安門事件のように、今回の事件を成功例にしてはいけない。

寂しい島 環礁ーミクロネシヤ巡島記抄ー/中島敦

タロ芋畑も、白い砂浜も、サンゴ礁も美しいのに、子供が何故か生まれない島を「此処ほど寂しい島はない」と中島敦は言う。

そして、その理由を「神がこの島の人間を滅ぼそうと決意したからだろう。非科学的と嗤われても、そうでも考えるより外、仕方が無いようである」と彼が感じたのは、日本から離れ、圧倒的な自然に囲まれた南洋の雰囲気に神の存在を感じたせいだろうか。

寂しい島の滅びを悲しみつつも、その寂しい感覚を神や宇宙の存在に引き上げているところが面白い。

島を離れる船の上から見上げた夜空の南国の星座の描写がとてもダイナミックだ。
今、私は、人類の絶えて了ったあとの・誰も見る者も無い・暗い天体の整然たる運転を――ピタゴラスの云う・巨大な音響を発しつつ廻転する無数の球体共の樣子を想像して見た。
この文章から受けるダイナミックな印象は、「李陵」のそれとは違うような気がする。彼が学んだ中国古典のエネルギーとは別のところから由来しているような気がする。たとえて言うなら、まるで宮沢賢治が書くかもしれないような。

中島敦の多面性が、この「環礁」の短編ごとに感じられるのが興味深い。

2020年8月10日月曜日

幸福/中島敦

中島敦は、第一次世界大戦後、日本がミクロネシア諸島を委任統治していた時代、南洋庁の編修書記という職務で、約9か月間、パラオに滞在していた時期がある。

その時の経験を基に、南洋を舞台にした幾つかの短編を書き残している。
「幸福」もその一つで、南洋の島に伝わる昔話だ。

身分が卑しい下僕は、彼の主人である長老に、過重な労働を強いられ、いつもひどい仕打ちを受けている。彼は忍耐強い男であったが、そのうち、空咳が出る疲れ病いにかかってしまう。下僕が、神に、病いの苦しみか、労働の苦しみのいずれかを減じてほしいと祈ったところ、夢を見るようになる。

その夢の中では、下僕は長老に成り代わっており、食卓には御馳走が並び、女は妻だけでない範囲で自由にすることができ、誰もが彼の指示に従う。特に長老に似た召使いに対しては過酷な仕事をいいつける。夢から覚めれば、また卑しい下僕に戻ってしまうが、夜の楽しさを思い、彼は昼間の辛苦にも耐えられるようになる。そのうち、夢の中での美食のせいか、病気までもが回復し、めっきりと肥り始める。

一方、長老も同じ時期から夢を見始めるが、その夢は、自分が卑しい召使いとして、自分に成り代わった下僕に無理難題の仕事を強いられるという夢だった。そのうち、長老は、空咳をしはじめ、痩せ衰えていく。

怒った長老は、ついに下僕を呼びつけ、手酷く罰しようとするが...という物語だ。
ガルシア・マルケスのマジック・リアリズム的な作品だが、やはり、空咳をし、痩せ衰えていく下僕に、喘息に侵されていた中島敦自身の影を感じてしまう。

彼がこの下僕のように幸せな夢を見続けることで健康を取り戻し、もっと多くの作品を書き残すことが出来ていたら、どんなによかったろうと思う。