2012年8月27日月曜日

蛇/エリアーデ

エリアーデの幻想小説「令嬢クリスティナ」の次に書かれたもので、1937年の作品だ。

75年も前の作品だが、特に違和感なく読むことができたのは、物語のせいだろうか。翻訳のせいだろうか。

あらすじは、大体、下記の図のとおりだが、今まで読んできたエリアーデの作品の中で、一番幻想的な作品だと感じた。

まず、今までの作品で暗い影を落としていた秘密警察や、タントラのオカルティズムといった存在もなく、作為的な筋書きを思わせる推理小説的な展開もない。
また、「蛇」という呪術的な存在は現れるが、どことなく、エロティックな雰囲気はあるものの、恐怖を感じさせない。

「何ら草案なしに、どう筋が展開されるかも知らず、予め結末も知らずに私が書いた唯一の本」とエリアーデが称しているように、この物語の雰囲気は、「俗」から「聖」へと、どんどん変わっていく。

最初は、上流社会の若干退屈なパーティーの場面からはじまるが、謎の青年 アンドロニクが登場し、女性たちが彼に惹かれる中、夜の森の中でのゲームは、人々の隠れた思惑がうずまく妖しい雰囲気になり、真夜中の食事の後での灰色の大きな蛇を追い出す儀式では神秘的な雰囲気になる。
最後に、湖に浮かぶ島で、アンドロニクとドリナが生まれたままの姿になって、美しい朝日を見る場面は神々しい雰囲気までになる。

最も執筆活動に油がのっていた三十歳のエリアーデが、神がかり的な状態になってわずか十四日間で書き上げた傑作かもしれない。


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