2011年9月20日火曜日

海老沢泰久の小説

海老沢泰久氏が2009年8月13日に死んだのを知ったのは、うかつにも今年に入ってからだ。

寡作な作家のため、まだ、作品が出ないのだなと、のん気に構えていたら、久々に買った時代小説「無用庵隠居修行」のあとがきを読んで亡くなられたのを知ったのだった。

思えば、海老沢泰久氏の小説とは、長いつきあいで、「監督」からはじまり、「F1地上の夢」「F1走る魂」「美味礼賛」といった準ノンフィクションものや、「二重唱〈デュエット〉」「帰郷」「夏の休暇」といった恋愛小説が中心の短編、最近の歴史小説「青い空」など、ハードカバーから単行本まで、本棚にちらばっている。

「監督」からは、勝利に徹するプロ意識を学び、「F1地上の夢」では、好きなことをとことん追求することが世界に通用する技術力を持つ会社の原動力であったことを学び、「美味礼賛」では、辻 静雄という料理をまったく知らなかった男が、日本のフランス料理の歴史ひいては本場のフランス料理の流れや日本の和食の流れを変えたことを学んだ。

私が社会人になってから読んだもっとも優れたビジネス書といってもいいくらい、色々な具体的なことを教えられたような気がする。
それは、丸谷才一氏に「冷静沈着な斥候将校の書く報告文」と称されるくらい、ややこしい事柄を明晰に簡潔に表現し、読んですっきりと理解できる文章を書いたということも含めての話だ。

六十歳にも満たない年で亡くなられたことを本当に残念に思う。

唯一のなぐさめは、彼が取材して書いたF1の時代が、アイルトン・セナ、アラン・プロスト、ネルソン・ピケ、ナイジェル・マンセルといった、今では考えられないくらい豪華なドライバーがいた時代で、かつ、ターボエンジン全盛のF1が一番輝いていた時代だったことだろうか。

また、海老沢氏の長所を最もよく理解している丸谷才一氏がいて、同氏の提案で、辻 静雄(1993年死去)という日本の西洋料理の第一人者からの取材を通して、稀有といっていいくらい素晴らしい料理小説を書くことができたことかもしれない。

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