前回、南洋の話を書いたので、その続き。
アントニオ・タブッキの「島とクジラと女をめぐる断片」は、不思議な本だ。
大西洋のまっただなかにあるアソーレス諸島を舞台にしたクジラと難破船
にまつわる話だのだが、クジラと難破船は、あくまで隠喩であり、作者が
言いたいのはそれに仮託した別の何かなのだ。
神話、失望、破滅、希望、孤独、死、女、クジラが陥る深い眠り…
これらを詩的なイメージで書いた文章の断片から思い浮かぶ何かは、
まるで水中に何回も潜った後、陸に上がると、耳元にかすかに残っている
波の音の感覚に似ていている。
翻訳者の須賀敦子がつけた美しい表題「島とクジラと女をめぐる断片」に、
まず惹かれてしまって読んだ本だ。(原題は、「ポルト・ピムの女」)
そして、読後も、この表題の期待を裏切らない本だと思う。
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