谷崎が大正7年(1918年)に書いた犯罪小説だが、彼の変態的な性癖(触感)が遺憾なく発揮された作品になっている。
物語は、作者が高名な弁護士の事務所を訪れていた際、一人の病的な青年が「今、人殺しをしてきたかもしれません」と告白するところから始まる。
油絵を描くことを職業としている青年には、 血統的に精神病の気があり、糖尿病も患っているが、駆け落ちした元藝者の女の淫奔と多情、我儘に悩まされ、ひどい神経衰弱に罹っている。彼は徐々に気が狂い、女を殺す寸前まで折檻するようになる。
ある日、青年は、立ち寄った銭湯で、不思議な体験をする。それは、湯船の下に、ヌラヌラした流動物の塊のようなものが漂っていることを、足の裏で感じる。そして、それを執拗に確かめていくと、彼が折檻した女の死骸であることに気づく。
汚い銭湯にありがちな風呂場のヌルヌルとした不気味な触感に快感を覚える青年が持つ、蒟蒻、心太、水飴、蛇、蛞蝓、太った女性の体、腐ったバナナ、洟水に対する愛着の念、そして、ヌラヌラとした女の死体の触感を足の裏で感じることに陶然とする青年を、いかにも谷崎らしく描いている。
物語の最後に、青年が犯した本当の犯罪の姿が明らかにされるが、その笑い話のようなオチが、さらに、この物語の毒々しさを増している。
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