谷崎が大正7年(1918年)に、二人の画家の微妙な関係を描いた小説であるが、後半から犯罪小説に変化している。
青野は、人を騙し、借りた金を返さず、友人の物は盗み取り、性に関してはマゾヒストという不徳な男であるが、彼が描く絵画には天才がある。
一方、青野の友人である大川は、財産を有し、社会からも受け入れられる篤実な性格の持ち主で、秀才肌の画家であるが、青野の稀有な才能を誰よりも理解しており、彼を助けるパトロンのような役割を演じながら、その実、誰よりも深く彼の才能に嫉妬している。
そういう複雑な関係の二人だが、大川が、偶然、展覧会に出展する作品のモデルとしていた女性を、青野も同じくモデルにして、絵画を制作しようとしていたことを知る。そして、自分の絵と、青野の絵のどちらが優れたものになるかを知るために、女性に金を渡し、青野の絵のモデルになることを依頼する。
二人は絵画の制作を進めるが、大川は青野が描く作品の出来がどうなっているのかが気になり、ついに我慢できなくなって、青野に絵を見せてくれるよう懇願する。青野は金と引き換えに絵を見せるが、その藝術は大川の絵とは比較にならないほど優れていた。
絶望に突き落とされた大川は、ついに青野を殺す決意を持つ。
ここからは、 大川がいかに逮捕されることなく犯罪を犯すかということが描かれていて、文中、シャーロック・ホームズの「緋色の研究」に出てくる、ホームズが語る探偵の資格に必要な三要素(観察、智識、帰納法)も引用されている。
大川の殺人方法は、それ程、特異なものではないが、襲撃される青野の混乱した様子や、物語の結末は、やはり上手いと思う。
しかし、人物の描き方や二人の関係、物語の展開は、あまりにも映画「アマデウス」 のモーツアルトとサリエリの関係に、似ているような気がする。
年代的にいって、「金と銀の」方が先に作られているので、実は「アマデウス」 のネタ本だったと言われても、私は驚かない。
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