相場師の父と無学で贅沢好きの母の間に産まれた、由太郎と光子の兄妹。
ともに美貌にめぐまれ、母親に甘やかされて育つが、由太郎は歳と共に少しずつ女らしい美しさを失ってゆく自分に焦りを感じている。
父の急死を機に、二人の兄妹は伯父の家に引き取られるが、男として冷遇される由太郎に対し、引き続き欲しいままの贅沢を与えられ、美しさを増してゆく光子。二人の運命は大きく変わってゆく。
なんといっても、この物語の面白さは、性格の悪い美少年 由太郎が、これまた性格の悪い美少女の妹に負けじと、自分に歓心を持った人間を、その魅力で落とし、好きなことをし放題するのだが、それに見合った罰を受ける過程にあるのだと思う。
また、谷崎にはめずらしく男同士の同性愛を描いている部分もあるのだが、谷崎の美的感覚からすると、やはり、男同士の恋愛は美しくないものと考えていたようだ。
由太郎は、自分に恋する年長の秀才の男子学生 濱村との恋愛を、もう一方で自分を恋する藝者の巴と比較して、こんな風に述べる。
由太郎は濱村と交際して居た時分、いかに親密を装うても、いかに愛情を注ぎ合っても、始終其処に物足りない、不自然な蟠りがある事を感ぜずには居られなかった。濱村も自分も、絶えずお互いに感情を誇張し、芝居をして居る心持ちを、拭い去る事が出来なかった。二人の関係は美しいようで、その実醜い、拙いものである事を、忘れる譯に行かなかった。そう述懐した由太郎は、藝者の巴を食い物にして、金をむしり取る一方、従兄と仲良くなった妹に対抗するため、伯父の資産に目をつけ、従姉の雪子に狙いを定めて毒牙にかけるが、やがて、雪子にも、巴にも愛想をつかされてしまう。
由太郎は、光子の策略もあり、被害にあった女性たちからの手ひどいしっぺ返しを受け、「宿無し犬」としてどこかに遁走してしまう一方、光子はめでたく従兄と結婚し、「才色双絶の年若き貴婦人」として都下に響き渡る。
男に宿る美貌は、その男を不幸にし、ろくな結果を生まないが、女の美貌は、その女を幸せにして、社会において神聖化される。
そんな極端な図式が分かりやすいのも、この小説の面白いところかもしれない。
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