谷崎が二十五、六の頃に書いた短編小説。
この頃、 谷崎は神経衰弱に悩まされていたらしいが、この作品の主人公 佐伯の行動にその様子が反映されていているものと思われる。
「惡魔」は、東京の大学に入学することになった佐伯が、残暑溢れる新橋の駅に降り立ち、下宿先として住むことになる本郷の叔母の家を訪ねる場面から始まる。
この叔母の家には、歳の近い従妹の照子と、書生の鈴木がいる。
そのうち、大学に行くことにも飽きてしまった佐伯が二階の部屋で寝ていると、頻繁に照子が訪れるようになる。彼女には悪魔的な魅力があり、その無神経な行動が佐伯の神経を悩ませることとなり、同時に彼女とかつて関係を持ったという鈴木から、手を引くようにと脅迫を受けることになる。
佐伯は、照子が鼻をかんだハンカチを隠し持ち、それを舐めるという変態的な行動に快感を覚える。
「續惡魔」は、その続編で、ますます神経を病んだ佐伯が、大地震の発生を恐れるようになる。
(この作品が書かれたのは大正2年。関東大震災が起きるのはその10年後である)
その佐伯に、ますます照子は接近し、自らの魅力で彼を力でねじ伏せてしまう。(たぶん、関係してしまったと思われる)
その二人の様子を見た鈴木が佐伯に対し、姦通の罪を宣言し、謝罪を迫るが、佐伯は受け付けない。そして、鈴木は叔母あてに、二人の関係を告発し、佐伯に対して即刻家を立ち退くことを要求するとともに、従わなければ、暗い所に気をつけろという脅迫めいたな内容の手紙を残し、家を出ていってしまう。
この後、便所の裏に潜んでいた鈴木を発見し、ついにやりあうことになるのだが、その結末は、佐伯が好んで読んでいた講釈本のように、残酷でグロテスクなものだった。
(その結末を、佐伯が望んでいたのではないかとも思える)
若い頃の谷崎は、制御しきれない性への欲望と、その副作用として頭が馬鹿になるのではないかということについて真剣に悩んでいたらしい。
しかし読んでいる限り、本人の心配は杞憂だったと思われるくらい、谷崎の文章はちっとも曖昧なところがない上質なものになっている。
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