高校生のときに初めて読んで以来、夏目漱石の作品の中では一番好きな小説だ。
第一夜…死にぎわの女と百年後に逢う約束をして待つ男の話
第二夜…悟りを得ようと座禅を組むが一向に悟りを得られず死を決意する男の話
第三夜…闇の中、盲目の子どもを背負って森の中にいき自分の前世を知る男の話
第四夜…蛇をみせるといって河の中に沈んでいく爺さんの話
第五夜…捕らえられた自分を助けに来ようとした恋人を天探女に殺された男の話
第六夜…鎌倉時代の仏師 運慶が仁王を彫っている姿を見た男が自ら仁王を彫る話
第七夜…大きな汽船に乗っていた男が死を決意して船から飛び降りて後悔する話
第八夜…床屋の鏡にちらっと映る奇妙な出来事を確かめられない男の話
第九夜…父が不在のときに無事を祈る母だったが実は父が浪士に殺されていた話
第十夜…女にさらわれた庄太郎が豚になめられて命を落としそうになる話
どれも奇妙な話だが、やはり、印象が強いのは、第一夜、第三夜、第十夜である。
特に第三夜は、自分の前世、原罪を思ってもみない状況で知ってしまう怖い話だ。
丸谷才一の「樹影譚」は、この系譜にある作品のような気がする。
第十夜は絶壁を飛び降りるか豚に舐められるか二者択一を迫られるという奇妙さでこの中でもずば抜けている。
パナマの帽子が悪いのか、好色な暇人の男への罰なのか、原因は定かでないが、ちょっと喜劇的な感じがする。
第一夜は、十の話の中でも一番ロマンチックな話だ。しかし男は百年待ったのに女は現れず、白百合との再会という結末は、恋の残酷さや夢のはかなさがそれとなく伝わってくる話だ。
なお、個人的には第二夜と第六夜・第七夜も結構好きです。
第二夜は悟りを得ようとしたり、座禅を組んだことがある人ならば、この男の辛さはなんとなく共感できるのではないだろうか。
また、第六夜と第七夜は「明治の申し子」である夏目漱石ですら富国強兵に突き進んでいく明治という時代に対して嫌悪や不安を感じていたのではないかと思わせる点でとても興味深い。
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