暗い映画は個人的に好きではない。
しかし、それが分かっていても、ついつい目を離せなくなってしまう映画もある。
「泥の河」は、昭和31年の大阪、阿治川の河口を舞台に、廓船に住む母親・姉・弟と、船が係留した川岸に建つうどん屋の男の子の出会いと別れの話だ。
個人的には、弟がうどん屋に招待されたときに披露した愛唱歌が軍歌「戦友」というのにも胸をゆさぶられたが、この作品の中で一番胸を打たれたのは、やはり、姉 銀子の存在だ。
初めて船に遊びに来た男の子の足を、公園から汲んできた自分たちの飲み水でやさしく洗ってあげる女の子。貧乏だけれど、白い清潔そうなシャツを着ていて、家事をほとんどしない母親に代わって何でもするが、ほとんど笑うことがなく、米びつに手を入れているのが温いと感じる女の子。
こういう女の子に出会ったはずはないのだが、どこか懐かしさを覚える。
小栗康平の作品は「死の棘」も相当に暗かったが、やはり最後までみてしまった。
それは、観る者がどこかで経験した(あるいは夢想していた)過去や記憶が映像のところどころに埋もれていて、それがどうしようもなく人を引きつけるからだと思う。
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