この作品においても、戦争が暗い影を落とす。
二人の母娘が、戦禍のローマを離れ、田舎に疎開しようとして、山中をさまよい歩くことになる。
空襲、飢え、強欲な人々、兵士による強姦、盗み…
モラヴィアは観念的な表現を一切用いず、戦争という暴力的装置に巻き込まれ荒廃していく人々の生活を淡々と描いていく。
前回紹介したエリアーデの妖精たちの夜(Ⅰ)では、主人公が瞑想することで戦争という現実、歴史の呪縛から逃れようとしていたが、モラヴィアが描く人々は、その悲惨な現実を真っ向から体で受け止め、傷つき、血を流し涙を流す。
強靭な精神力を持つこの二人の作家が、それでも書かずにはいられなかったほど、戦争という不幸は二人を、二人の属する社会を、苦しめたに相違ない。
平和を当たり前のものだと思っていてはいけない。
その尊さは失ってみてはじめて分かるものなのだ。
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