中公文庫の「中国行きのスロウ・ボート」は、村上春樹のよい短編が揃っている。
学生時代に読んで、何度か本を紛失し、それでも、また読みたくなって買ってしまう。
そういう本です。
中でも、「午後の最後の芝生」は、いいですね。
彼女に振られた大学生が、最後の芝刈りのアルバイトに行くという、それだけの物語ですが、読んでいて、自分も暑い夏のさなか、芝刈りをして、心地よい疲れが体に残る、そんな気分になれる物語だ。
もうひとつ、「土の中の彼女の小さな犬」も個人的に好きです。
六月の雨が降り続けているリゾート・ホテル。客は、文章を書く仕事をしている「僕」と、ピアニストの彼女しかいない。
二人は退屈紛れに、言葉を交わすが、
彼女との会話から微かなひっかかりを感じたことをきっかけに、僕が霊感を使って、彼女の素性について、ゲームのように当てはじめる。
文章も洗練されていて、外国の作家の短編の翻訳と言われても気づかないだろう。
ちょっと、オカルトっぽい内容ですが深入りしない終わり方がとても上手だと思う。
表題の「中国行きのスロウ・ボート」は、「僕」が出会った三人の中国人の話ですが、二人目の女子大生の 「そもそも、ここは私の居るべき場所じゃないのよ」という言葉が、今と当時の変わり映えのしない中国と日本の距離感を表しているように思う。
願わくは、一人目の中国人のテストの監督員が話したような関係が築けるといいですね。
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