夜、品川インターシティを歩いていたら、中庭の木々から、鈴虫の音色が聞こえてくる。
しかも、ちょっとの量ではなくて、耳の奥まで響いてくるような、かなり大きな音色だ。
何か不思議な感じを覚えながら、歩いていたら、数日前に読んだエリアーデの小説「イワン」の最後のシーンを思い出した。
主人公が”あの世”へ行くときに現れた光り輝く橋と、巨大な水晶の吊鐘、黄銅のシンバル、フルートとコオロギの声の異様な合奏が鳴り響く。
そしてまた、今日読んだレポートの内容(上司が連絡の取れない部下に関して書いたもの)がふと、頭をよぎる。
「…けれど、いったい、いつ、誰が、どこで?」
このビジネスレポートっぽくないフレーズ。でも、どこかで読んだことがあるような気がしたのだ。
鈴虫の音色で思い出す。それも、「イワン」の最後の一節だった。
「…だがいつ? いつ? どの生で?……」
徐々に人込みの多いJR品川駅の構内へ。鈴虫の音色はだんだんと遠くなっていく。
でも、私のこころは、この普段の生活と、エリアーデの世界との近接を感じて不思議な気持ちのままだった。
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