「環礁 ミクロネシヤ巡島記抄」からの一篇。
デング熱に罹り、まだ病から回復しきれていない作者が、だるさを抱えたまま、パラオの村を歩いている。
風が止み、蒸し風呂のように熱く重たい空気に病み上がりの体が耐え切れなくなってしまった作者がふと立ち寄った島民の家で、赤ん坊に乳を含ませた上半身裸の若い女と目が合ってしまう。作者は若い女が自分に欲情していると感じ、作者も若い女にほのかに欲望を感じている。
そんな状況になったのは、その日の温度と湿度、花の匂いのせいだと作者は理由を説明している。
そして、そんな混濁した感情を洗い流してくれるような激しいスコール。
雨上がりの道で再び会った若い女の澄ました顔が、このエピソードに妙なリアリティを与えている。
中島敦の作品としては、珍しくエロティックな印象が残る短編だ。
0 件のコメント:
コメントを投稿