山岸涼子の特徴のひとつは、自らを押さえつけ、束縛し、無力化しようとする存在との葛藤や戦いを描いている作品が多いことだ。
「スピンクス」は、魔女スピンクスの館に幽閉された男の子が、その魔力から逃れようとする物語だ。
歪んだ異常な世界の意味することが物語の終わりのほうで分かったとき、少女漫画が人間の内面世界をここまで描くことができるのだということに驚いたのを今でも覚えている。
「鬼子母神」は、夫に失望した母親の愛情と期待を一身に受け、そのプレッシャーに押しつぶされてしまった兄と、母親の鬼子母(愛しすぎて子供を食べてしまう母親)の一面を見抜いてしまった妹の苦悩を描いた作品だ。
この作品を読んだとき、藤原新也の「乳の海」を思った。
(「乳の海」も、母親にペットの「チワワ」同然に育てられてしまった青年が、何とかその呪縛から抜け出そうともがく様子を描いた作品です)
「メディア」は、ギリシャ神話の「王女メディアの子殺し」から題名をとりながらも、物語は、女が母親役にしがみついて起こってしまう子殺しの悲劇だ。
これらの作品の裏の主題は、父親の不在(あるいは存在感のなさ)。
ストーリーがとてもしっかりして、絵もきれいなのですが、よけい怖いです。
一番悲劇的という意味では、「鬼子母神」の兄かもしれないですね。
なぜなら、「スピンクス」の少年も、「メディア」の女の子も、このままではいけないことを自覚し、必死に戦うのですが、「鬼子母神」の兄は母親の愛情に飲み込まれてしまい、いまだ自分を取り戻せないからです。
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