タブッキの小説には、こういう手法や見方で小説が書けるのかと思わせるようなユニークな趣向のものが多いが、この本もその一つだ。
本の冒頭、小さな覚え書があり、そこには、
「自分の愛する芸術家たちの夢を知りたいという思いに幾度となく駆られてきた」とある。
そう、この本は、タブッキの好きな芸術家たちが見る夢を夢想して描いた物語だ。
登場する芸術家は、私が知っていた名前だけを挙げても、画家のカラヴァッジョとロートレック、小説家のスティーブンソン(「宝島」が有名)とチェーホフ、詩人のランボーとペソア、音楽家のドビュッシー、心理学者のフロイト博士と、幅広い(全体で二十人)。
巻末には、親切にも「この書物のなかで夢見る人々」と題し、登場する芸術家たちの簡単な説明書きがある。
たとえば、フランソワ・ヴィヨン 生年は一四三一年だが、…無軌道で荒んだ人生を送る。喧嘩がもとで司祭を殺害し、徒党を組んで窃盗や強盗を繰り返し、死刑を言い渡されるが、のちに流刑…かれのバラードでは、慣れ親しんだならず者の世界の隠語がかがやいている…とある。
なぜ、こんな人物を取り上げたのだろうと思ったが、実は、この芸術家の見る夢が一番怖く幻想的だった。(夏目漱石の夢十夜 第三夜のような内容です)
ほかにも、足が長くなり、女と抱き合う夢をみるロートレックの話や、片足を失ったランボーがパリを目指して旅する話、旅のなかで異名のもう一人の自分を見つけ、勝利の日を向かえたペソアの話、患者の女性になりきって男に抱かれてしまったフロイト博士の話など、それぞれの芸術家にちなんだエピソードも盛り込まれており、とても面白い。
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