2012年10月13日土曜日

ダマセーノ・モンテイロの失われた首/アントニオ・タブッキ

「供述によるとペレイラは」の次に発表されたタブッキの作品で、あまり期待はしていなかったのだが、読んでみて予想以上に面白かった。

主人公フェルミーノは、リスボンの二流新聞社に勤める新聞記者で、仕事のかたわら、ポルトガルの戦後文学を研究している。
休暇明け、上司から、首が切断された死体が発見された事件の取材を命ぜられ、事件がおきたポルトの街に向かう。

死体を発見した年老いたジプシー、マノーロ、主人公が宿泊するペンションを経営する上品な婦人で、事件の取材に必要な人的コネクションを持つドナ・ローザ、性格に一癖ある裕福で博識な老弁護士ドン・フェルナンド。

登場人物の輪郭が鮮明で、あらすじもはっきりとしている。この事件は、実際にポルトガルで起きた首なし事件をモチーフとしており、国家警備隊(ポルトガルの警察組織)、拷問、麻薬、ジプシーといった社会問題を取り上げており、タブッキの得意とする幻想的な小説とは一味違っている。

それでも、レストランや食堂車のウェイターとの何気ないやりとりや、ドン・フェルナンドが時刻表で、複雑な鉄道の乗り継ぎを記憶し、想像上のヨーロッパの鉄道旅行を自由自在に話す場面、カメレオンをフェルナンド・ペソアみたいだと話す少女。
こういったタブッキらしいシーンを、所々、感じられるところもおもしろい。

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